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Ⅰ 皇帝が生まれた宇宙①
戴冠式は異例だった。
海軍空母ロイバルト艦内での儀式は前代未聞である。
ザッ
床が鳴った。
軍人どもが跪く。
クローヴァー朝前皇帝・第六子 レイ・フォン・クローヴァー
帝位を継承する筈ない俺が、なぜ玉座に就いた?
皇帝の位を継承する筈のない俺がなぜ、ここに座る?
帝の玉座に。
なぜだ?
クーデターだからさ。
クローヴァー朝14代皇帝 オールトの圧政に民意は離れ、国は衰退した。
皇帝を補佐する貴族は享楽に明け暮れ、飢えた民から搾取する。
貴族達は民からの搾取で財を築き、皇帝に莫大な金銀を献上し、自治特権を与えられて享楽に明け暮れる。
国政は腐敗した。
そうして腐った歴史は壊れていく……
海軍空母七隊によるクーデターが勃発したのだ。
軍は瞬く間に政府中枢を占拠した。
腐敗した政府に、皇帝を命を賭して守る者などいない。
あの男は、どうなったか?
自決したと聞くが。
どうでもいい。
あの男を父だと思った事は一度もない。
俺もまた献上品だ。
権力の妄執にとり憑かれた地方領主が、皇帝に献上したのが俺だ。
稀少種『Ω』である俺は、金銀・家畜と共に皇帝に捧げられた。
養子となったのは体裁を整えるためだ。
クーデターを行った軍部にとって、俺はさぞかしいい口実になった事だろう。
人が人を蹴落とし、成り代わるのに、この世界は大義名分を必要とするらしい。
『悪虐帝に虐げられている第六皇太子 レイ・クローヴァー様を救出する』
俺は………
「我は傀儡 の皇帝である」
分かっているさ。
己が立場くらい。
ゆえに宣言してやろう。
「なぜ我が帝位に就く事ができたか」
それは………
「この世界がクズだからだ」
頭 を垂れた陰で、せせら笑う軍人ども。
理想という名の欲望に囚われたお前達に教えてやろう。
お前達の運命を
お前達は……
「滅べ」
ガガガガゴォオオオーッ
爆発の直後、船内に緊急事態を報せる警報が鳴り響いた。
赤いランプが回る艦内モニターに爆炎と黒煙が映し出された。
「来たか……」
俺を殺しに勇む者よ……
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