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Ⅰ 皇帝が生まれた宇宙②

世界の憎しみは止められないんだよ。 悪虐帝一族を根絶やしにするまで、憎悪は止まらない。 第六子である俺も憎悪の対象だ。 彼らからすれば俺も加害者なのだ。 人は血を恨む。 そう遺伝子に刷り込まれた生物だ。 圧政と搾取を行ってきた悪虐帝の一族である俺も恨まれて道理さ。 義勇軍 市民達が蜂起した。 俺を殺すために。 (焚き付けたのは俺だ) 宇宙の大海を()く星(かけ)る船を壊せ! 市民ども。 俺ともども。 あと僅か…… (生き永らえられれば、それでいい) あの男を殺せたなら。 (俺の命は、お前達にくれてやろう) 帝国中将 アルベルト・ヴァールハイト 戦艦ロイバルト提督にして、海軍空母七隊を率いて軍部を掌握。世界に戦火を放った、このクーデターの首謀者だ。 《暁の青嵐(モルゲン シュトルム)》の異名を持つ帝国軍人 「お前がッ」 (あの方を殺した) お前を英雄になどさせない。 お前は…… 悪虐帝・第六子の手に掛かって、惨めに死ね! 艦が揺れる。 赤いランプとサイレンが轟く。 第一緊急体制をとる艦内。この混乱に乗じて走る。 俺は、傀儡の皇帝だ。 外は義勇軍の攻撃の嵐である。脱出は不可能。 戦艦ロイバルトは俺を監禁する鳥籠だ。 戦時下で、傀儡皇帝など見向きもしない。 (この状況下こそ好都合だ) 俺が何もできない新皇帝だと思ったか。 それこそ貴様らの(おご)りだろう。 船の位置を義勇軍に流したのは俺だ。ハッキングできるまでに、艦内は熟知している。 あの男は司令室にいる。 艦内映像は差し替えた。 これから何が起ころうとも、映像の中でお前は生きている。 お前を守る部下はいないよ。 さぁ……… 「祈りは済ませたか」 右手の掲げる銃口が、司令室の椅子に座る男を捕らえた。 「アルベルト・ヴァールハイト中将」 引き金を引く手に躊躇(ためら)いはない。 お前が殺したのは明白だ。 大義名分を捏造(つく)るために。 第六子の俺が帝位に就くには、五人の兄が邪魔になる。 五人の兄を手に掛けたのは、ヴァールハイト! 「お前が、あの方を……」 俺に飽きた悪虐帝は、第一皇太子に俺を下賜した。 息子に、俺を花嫁として。 悪逆帝の狂った行いを、それでもあの人は受け入れて、俺を愛してくれた。 なのにッ 『理想』という名で崇高に虚飾した、悪魔の甘い欲望にとり憑かれたお前がッ あの人を! 俺の……… 「運命のαを殺した」 奇声を上げて、銃口が火を吹いた。

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