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Ⅱ 運命の引力②

俺は外見上、雄の生殖器を持ちながら放精能力がなく、雌の受精能力を持つ稀少種Ωだ。 ヒトには二つの性別がある。 第一性と呼ばれる性別は、外見上の生殖器により判別する雌雄である。 もう一つの性を第二性といい、生殖能力で判別する。この第二性には、α・β・Ωの三種がある。 βは第一性の外性器通りに生殖を行う。 αとΩは雌雄に関わらず、αが放精能力を、Ωが受精能力を持っている。 放精と受精の奇異な関係にあるαとΩは、不思議な絆で結ばれている。 この世界のどこかに、運命のαと運命のΩがいて、運命と運命が出逢った時、αとΩは強烈に惹かれ合うと云う。 しかし…… 今や人類は、その生活拠点を宇宙にまで伸ばした。 あまたのヒトが生きる世界で、たった一人の運命のαと、たった一人の運命のΩが出逢うなんて有り得ない現実だ。 お伽話か空想だと思っていた。 それは、有り得ない運命だから。 だが運命は交錯した。 俺達は出逢ったんだ。 (クラウス殿下) あなたは俺の運命のαで、俺はあなたの運命のΩ (なのに、なぜッ!) 心音が打ちひしめく。鼓動の高鳴りは、目の前に突きつけられた銃口に震えているからじゃない。 「俺は死を恐れない!」 こんなクズの世界で…… 同じく稀少種であり、身体的にも生殖能力的にも優れたαが、β・Ωを支配している。 Ωはαの家畜になった。 いびつに歪んだ世界すべてがΩの檻になり、世界全部が敵になった。 悪虐帝の支配体制下で、Ωは…… 俺は、飼われるしかなかった。 こんな世界…… 「なにも期待しない」 皇帝になったところで、俺は世界を変えはしない。壊す価値すらない世界だ。 「だが!」 引き金が鳴る。 「お前だけはッ」 俺の手の中で…… どうして、お前が運命のαなんだ。 なぜ運命のαがまた現れるんだ。 「運命のαが一人だと、誰が証明したんだ?」 銀の髪が一筋、額に落ちた。 「運命と運命が出逢うのは稀だ。αもΩも、そのほとんどが己が運命に出逢う事なく一生を終える」 男の顔半分がゴーグルで覆われている。 銀の髪に、白磁の肌。 それ以外は、何も分からない。 体温が温かいのか、冷たいのかさえも。まるで。 「確率統計の問題だ」 彫像のように。 銃を構えている。 この男がッ 「私が」 引き金に掛ける指に迷いはない。 「もう一人の運命のαだ」 銃口が火を吹いた。 出逢う事が稀であるから、人々は運命の番が一人だと思い込んでいる。 しかし。 運命は幾つもある。 「お前には選択肢がある」 再び現れた運命を。 「お前が運命を選べ」 鈍いうめきは銃声に消えた。生き絶えた兵士が背後で倒れる。 帝国中将 ヴァールハイト お前と出逢ったのは運命か。 この世界が起こした奇跡か。 俺に選択肢があるのなら…… 「そんな奇跡は要らない!」 運命のα お前を殺す。 銃声が轟いた。 俺の手の中で火を吹く。 俺が、運命を壊す。

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