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Ⅱ 運命の引力③

「レイ!」 ………どうしてなんだ? お前を殺したい。 今ならお前を殺せる。 殺す事ができた筈。 なのに…… 心臓が撃ち抜かれる事を恐れもせずに、抱きしめる頑強な腕の中に…… (閉じ込められている) 抱きすくめられている。 「吸うなッ!」 毒ガスの類いか。 艦内に白い希ガスが充満する。 義勇軍が禁止兵器を使ったのか。 すぐさま浄化装置が作動し、ガスが換気される。 白い景色に、深紅の斑点が映る。 微かにそよいだ血の匂い…… 銃弾が掠めていた。 俺が、撃ったんだ…… (この男を) けれど撃ち抜けなくて。 殺そうとした俺を、男は守ろうとしている。 熱い 苦しい 狂おしい 屈強な腕に戒められて、抱かれている。 「陛下、大事ございませんか」 髪を撫でるように、吐息が囁いた。 「私が憎ければ、手の中の銃の引き金を引いて、私を撃ち抜いてください」 刹那、腕をグイッ引かれた。 銃が擦り変わっている。 俺の手の中にあるのは、ヴァールハイトの拳銃だ。 「ヴァールハイトは自殺した。……そう諸侯に報せばいい」 「なにをッ」 「あなたは皇帝だ。あなたの生涯も、あなたの手も汚してはいけない」 「俺は、お前をッ」 ………………いま、なにを考えた? お前をどうしたい? 俺は、なにを考えた。 この男を生かす…… そんな生やさしいものなんかじゃない。 この男を、 αを俺はッ 拳銃を握る手の下に、男の手がある。 あくまでも俺の手を汚させない気か。 俺の手に覆い被さる男の手がある。 逃げ道はない。 いま、ここで。 選択を強いられる。 体が熱い。 男に触れられているだけで。 鼓動が痺れていく。 引き金を引けば、この苦しみから解放される。 そのために俺は生きてきたんじゃないか! 家畜として。 オールトに飼われ、今また軍部に飼われた傀儡皇帝になってまで。 なってでも! 俺の生きる意味は…… クラウス殿下…… 「選べないなら」 あなたの声じゃない。 あなたじゃない声が響く。 それなのに…… 「あなたは、もう選んでいるのですよ」 あなたの声のように。 重なっていく。 声と声が。 ………レイ 「陛下」 ………我と共に 「私と共に」 「「生きろ」」

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