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Ⅱ 運命の引力⑤

先帝オールトは権力に執着していた。 権力を揺るがす者は全て敵だった。 「そのような方が子を生む事をお許しになる訳がない」 先帝には五人の子がいた。 第一皇太子・クラウス殿下は俺の婚約者だ。 「成長すれば政敵となる可能性がある。権力にとり憑かれた執念深い悪虐帝だ。我が子にだって」 「ヴァールハイト?」 何を言っている? 「皇太子達は、先帝の子ではありません」 「お前は何を知っている」 それが事実ならば。 「あなたが守りたいのはクラウス殿下と、クラウス殿下の残した忘れ形見」 あなたのお腹に宿るのは…… 「殿下の子ですね」 「そうだ!俺の腹にはッ」 「けれど、もうッ」 頬の涙を指がぬぐった。 「あなたの中に命はいない」 クラウス殿下の子は、もう…… 「流れたんですよ」 言葉の真実にカッと心臓が燃えた。 お前のせいだ! お前がクーデターを。 「クーデターさえ起きなければッ」 「クーデターを起こさなければ、あなたはクラウス殿下の子を産んでいたでしょう」 「お前が殺したんだ」 「そうだ。私が殺した」 クーデターの混乱で、俺は身籠った体を壊して…… 「悪虐帝統治下の帝国で産んでいたなら、子は先帝に殺されていた」 悪虐帝は権力に固執する。 権力基盤を崩す可能性のある者は敵だ。 一族を殖やす事を…… 「先帝は許さない」 悲しみに濡れた頬に体温が伝った。 『泣くな、レイ』 まただ…… またあの声が聞こえる。 「殿下!」 「私は殿下ではありません。しかし……」 頬に触れたのは、お前の唇。 「あなたを抱く事はできる」 唇がそっと…… 耳の裏に落ちる。 「発情期なんでしょう」 熱い吐息は、甘い毒だ……

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