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プロローグ

 荒い息を吐きながら走って、走って、走る。  夜の田舎道を満月がひっそりと照らし出す。月の他に明かりはない。東京の最果てにきてしまったことを、いまさらながらに実感する。  俺は走っていた。街灯ひとつない田舎道をひた走っていた。  助けを求めようにも右手は田畑、左手は鬱蒼とした草むらで、民家らしき明かりはひとつもない。田舎道に公衆電話などあるはずもなく、スマホや財布も部屋においてきてしまった。  なんだってこんなことになってしまったのか。  まるで悪夢だ。いや、悪夢ならまだマシだ。目覚めてしまえば『おかしな夢を見てしまった』と笑い話にできるのだから。  これは現実だ。  さっきからずっと心臓が痛い。俺の心臓には風穴が空いていて、そこがズキズキと疼いている。あいつに空けられた、あいつのかたちをした風穴が。 「……は」  足を止めると、疲労感がどっと押し寄せてくる。  脳裏に浮かぶのは、悪ガキがそのまま大人になったようなふてぶてしい顔。俺がライバルだと認めたたったひとりの男。会わないでいる間に外道へ成り下がった幼馴染み。 「……森正……どうしてなんだよ……っ!」  地面に向かって叫ぶ。  幼馴染みの変わり果てた姿なんて見たくなかった。 「見たくなかったんだよ……森正……」  地面に落ちた小さな染みが、月光を受けて光って見えた。

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