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憎くて愛しい俺のエネミー 5

 まず最初に中央の建物にいけ、と説明会で言われていたため、俺はコの字の横棒に当たる建物へ入っていった。  ずらりとならんだ下駄箱の向こうに、初々しい顔をした少年と、その少年になにやら指示を与えている三十代前半とおぼしき男が立っているのが見えた。  歳の割に若白髪が目立つ。栄養がいき届いていないのか、ストレスの多い生活なのか。 「玄冬――正面に向かって右の建物の二一五号室だ。荷物は玄関に積んであるから、自分の荷物を見つけて持っていくこと」 「はい、わかりました」  少年はかしこまった調子で答えた。どうやら新入生のようだ。たったふたつしか違わないはずなのに、ずいぶんと子供じみて見える。俺がそれだけ大人になったという証しだろう。  ふっ、と気怠げに微笑んでみたが、女子の目がないことを思い出してその無意味さにがっくりきた。  ここではこの美貌もまったくの無意味、無価値、無駄なのだ。なんという宝の持ち腐れ。  女の子の視界を楽しませるのは、俺のひそかな楽しみだったのに。 「あのー、今日から転入することになってる木村ですが」  少年が玄関へ向かったのを見計らって、俺は男に声をかけた。 「ああ、おまえが転入生の木村か。三年生から全寮制の学校に転校なんてめずらしいな」  そう言いながら、気さくに笑いかけてくる。  白髪があるせいで老けて見えるが、ひょっとしたらまだ二十代かもしれない。ちゃんと顔を見てみればなかなかに男前だ。背もそこそこ高いし、体格も悪くない。  まあ、俺ほどじゃないけれど、と心でつけ加えるのは忘れない。 「転校したくて転校したんじゃないですよ」 「まあ、いろいろ事情はあるだろうな。家庭の事情でうちに入学する生徒は少なくない。木村史路、だったな?」  犬のような名前が昔は嫌で嫌でしょうがなかったが、このごろではさすがに慣れた。  小学生のときはお手だのお座りしろだのとからかわれだが、高校生にもなるとそんなくだらない揶揄を仕向けてくる相手もいなくなった。 「俺は寮監督の岸田だ。学校では数学を受け持っている。授業後はここの寮監督室にいるから、なにかあったら言いにきてくれ」  ということは、この岸田という教師も生徒とともにここで寝泊まりしているのか。まだ若い盛りでひとり寝の夜に身を持て余すことはないんだろうか。  給料がいくらか知らないが、よくもまあこんな牢獄で暮らす気になるものだ。町から遠く離れたドのつく田舎、おまけに周囲は若いとはいえ男ばかり。ほとんど苦行である。ひょっとしたらこの岸田という教師はドMなのかもしれない。それともある種の修行僧か。 「なんだ、その人を哀れむような目は」  どうやら感情が目つきに表れていたようで、岸田先生の眉が寄った。いかんいかん。感情がそのまま顔に出るのは俺の悪い癖だ。 「いえ、ちょっと疲れ目で……」  俺は目をこすってごまかした。

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