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第1話
――種をまかなければ花も実もなるはずなどなく、収穫があるはずもない――
中学二年生になると全員がある検査を受ける。
男女とは別の第二の性別を特定する為に行う。第二の性別はα、β、Ωという三つに分かれる。それぞれに特徴があり、その性別によってこれからの生活が一変することもある。
「実(みのり)ちゃん、オレ、Ωだったよ」
弟の種(たね)がそう告げてきたのを今でもよく覚えている。
一歳違いの可愛い弟の行く末を心配しながら、心の奥にドロドロしたものがあることを自覚した。一体いつからこのドロドロがあったのか。ずっと昔からあった気もする。
「そのうち発情期がくると思う」
Ωの特徴の一つである発情期。この期間に入るとΩの身体からはフェロモンが出る。そのフェロモンは他人を誘惑し理性を飛ばしてしまう。Ω本人も性的興奮状態が続き不特定多数と関係してしまう。
弟もそうなるのかと思うといてもたってもいられない。何か出来ることはないかと模索するが思い浮かばず苦い顔で弟を見た。
「実ちゃんがαで、オレがΩ。オレね、Ωで嬉しいんだよ」
「嬉しい……?」
Ωだと判定を受けて喜ぶ人間は少ない。この先、発情期に入るたびに抑制剤を飲み続け、無理やり襲われる危険性に常にさらされる。
「うん、嬉しい。Ωになりたかったから」
種がどうしてこんなことを言うのか、実には理解出来なかった。出来ることなら弟はβであってほしいと思っていた。Ωのフェロモンの影響も少なく、番を作る必要もない。ごく普通の人間に。
「Ωになりたかったって……どうして?」
「αと、番になれるからだよ」
Ωはαとの性交渉中に項を噛まれると、番になれる。番になるとその相手にだけフェロモンが効くようになり他人を誘惑してしまう危険性がなくなる。それはΩにとって安全に生きることができる唯一の方法。
種にもいつか番ができるのかもしれない。そう思うと胸が痛くなった。
どうして胸が痛くなったのか、その答えを知っていて蓋をした。鎖でぐるぐるに巻いて鍵をかけて、簡単に蓋が開かないように。
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