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第2話
玄関を開けて中に入るとクスクスと下卑た笑い声が聞こえてきた。
リビングのドアを開けて中を見ると、弟がソファーに座っている見知らぬ男の膝に向かい合って跨がっていた。
「あー、おかえり、兄さん」
何ら悪びれた様子もなく、兄の目の前で男にキスをする弟に思わず目を伏せた。
一体これで何度目だろうか。種が男を家に招き入れるのは。
同じ相手ならまだしも、毎回違う男だ。しかも見た目からして真面目とは程遠い、軽そうな男ばかり。
自室があるのだからそこでいちゃつけばいいのに、まるで見せつけるかの如くリビングで男と睦み合う弟に頭が痛くなる。
何度注意しても弟は男を連れ込む。しかも兄の帰宅する時間にわざと。
「……ただいま。部屋にいるから」
弟たちの前を見ないように通り、実は自室のドアの取っ手を掴んだ。
「お前の兄ちゃん、お前にそっくりだな」
男がおかしそうに笑う。弟も「でしょー?」とケラケラ笑い出す。
「昔から双子みたいだってよく言われてたんだけどねー、一つだけ全く違うことがあんの。なんだと思う?」
実は取っ手を握った手に思わず力を込めた。
弟が男を連れ込むと必ずこの会話をする。自分に聞かせるために、わざと。
「年齢とかじゃなくて?」
「まあ、歳もいっこ違うけどね。それよりももっと違うことがあんの」
「なんだよ?」
種はクスリと笑い、実の背中を見た。背中に視線を感じて実はドアを急いで開ける。
「オレはΩだけどー、お兄ちゃんは優秀なα様なのー」
「マジかよ」
大きな声で笑い出した男の声を遮断するために自室に入るとすぐにドアを閉めた。
笑い声はやがて聞こえなくなり、かわりに弟の艶めかしい声が途切れ途切れに聞こえてきて実はヘッドホンをつけて大音量で音楽を流すことで耳を塞いだ。
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