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第10話
息子達に連絡が取れなくなって心配した母親が、離婚した夫に引き取られた長男が一人暮らしをしている部屋に訪ねて来たのは連絡が取れなくなってから一週間してからだった。
はじめから嫌な予感はしていた。まだ離婚する前、息子二人が一緒に暮らしていた時から気にはなっていた。
幼い頃はただ仲の良い兄と弟だと思っていた。それがいつからか変わっていった。
だいたいβ同士の両親からαとΩが産まれたことがおかしかったのだ。βからα、またはΩが産まれる確率は少ない。それが二人も。夫は浮気を疑い、家に寄りつかなくなった。
溜め息をつきながらインターフォンを鳴らす。しかし、誰も出てくる気配はない。試しにドアノブを回してみると鍵がかかっておらず、彼女は玄関を覗くようにしてドアを開けた。
靴が二組、並んでいる。恐らく二人の息子の物だ。
家に二人ともいるのに何故だれも出てこないのか。時間は夕方。まだ寝るには早い。
「実? 種? いるの?」
そっと入っていくとリビングには誰もおらず、きれい好きな実とは思えないほどゴミや服が散らかっていた。
服を拾い上げながら実の部屋と思われるドアの前まで行くと、すぐ隣の部屋から物音がした。恐らく種の部屋だろう。
「種、いるの?」
ドアを開けるとむせかえるような甘い匂いがした。これはΩの発情の匂いだ。種が発情期になるたびに嗅いでいた匂い。実が近付かないようにと神経を尖らせて世話をしていた頃を思い出す。
「種……? 実……?」
カーテンも閉め切った暗い部屋で何か蠢くものを見た。
それが何かわかると持っていた服を力なく落とした。
恐れていた事態が目の前にあった。
立ち尽くして言葉をなくす彼女に気がついた種が妖しげに笑むと、そのすぐ横から腕が伸びてきて種を引き寄せる。
「実ちゃん、母さんが来てる」
実の耳元で種が囁く。実は気怠げな身体を動かして部屋の入り口を見て、母の姿を確認するとすぐにまた種に向き直った。
我が子たちの睦み合う声がすぐに聞こえてきて、彼女は反射的にドアを閉めて家を出ると走り去った。
母が訪れても、去っても、彼らには関係なかった。
ひたすらに重なりあうことだけが二人の全てだった。
もう何も、必要なかった。
二人以外、何も。
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