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第9話

「嫉妬なんかしない……全員、本気じゃなかったことくらい見たらわかる……」 「ホントに? 項を噛まれててもそう言えた?」 「全員、βだったろ……番にはなれない……」  そう、βは番になれない。だから何人に抱かれても、耳を塞いで目を閉じることで早く終わることを願った。 「でも、これから来る人はαだよ」 「え……」  思わず顔を上げて種を見た。種は携帯を持ったままニコリと実に微笑みかける。 「オレのフェロモンで我を忘れたら、項を噛まれるかもしれないね」 「……そいつと、番うのか……番になりたいのか……」  手を、種に伸ばす。ゆっくりと、小刻みに震えながら。 「実ちゃんが番になれないのなら、誰でもいい。誰に抱かれても、実ちゃんじゃないなら同じだから」 「種……」  種が他のαのものになる。誰かの番になる。  いつかそういう日が来るとわかっていたはずで、それを兄として祝福するつもりだった。  それなのに今、たまらなくそれが腹立たしい。  種は自分のものなのに。産まれた瞬間から、弟は自分のものなのに。誰かのものになるなんて許せない。  気付けば部屋中、種の甘い匂いでいっぱいで実の鼻腔も肺も頭の中も種の匂いだらけだった。 「実ちゃん、オレが他の誰かのものになってもいいの?」  真正面から訊ねられて息を飲む。  弟はこんなに綺麗だっただろうか。フェロモンにやられておかしくなっている思考では正常な判断は出来ない。けれど、種はどんどん大人になって色気を増している。きっとすぐに種を番にしたいというαが現れる。 「ダメだ……そんなの……ダメだ……」 「実ちゃん?」 「種が……」  種が他の誰かのものになるなんて。 「俺以外と番になるなんて……」  本当は誰かに抱かれている姿を見るのも嫌だった。種に触れる男達全てをこの世から消してしまいたかった。 「許さない」  自分の中に僅かに残っていた理性が泡のように消えていく。  何をあんなに悩んでいたのか。ごまかしていたのか。  我慢するなんて、最初から出来るはずがなかった。 「種は俺のものだ」 「そうだよ。オレは産まれた瞬間からずっと、実ちゃんのものだよ」  もう何もいらない。理性も、道徳も、世間体も、何もかも必要ない。種がいればそれだけで他に何もいらない。 「種……」  まっすぐに手を伸ばして種を引き寄せると、今まで実をとどまらせていた迷いは既になくなっていた。 「実ちゃん」  幼い頃のような微笑みで種がそっと口付けをしてくる。それを受け入れ、種へと口付けを返す。  たちまち溢れ出すフェロモンに身を委ね、実は目を閉じた。  何も怖いものはない。今はただこの感情に溺れるだけで。

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