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第8話
一度抱いたら、何度でもその身体を求めてしまうだろう。まるで己の半身を手に入れたかのように幾度も一つに重なり、今まで枯渇していた中を満たしていっぱいにしてしまう。
溢れても、溢れても、やめることは出来ない。
それでも――。
「やっぱりダメだ……」
「どうしてっ……オレ、実ちゃんの気持ち、わかってるんだよ!? それなのになんでっ……」
「俺の気持ち……?」
種から醸し出される匂いに思考が混乱してくる。種は自分の気持ちの何を知っているのだというのか。
生まれてはいけないドロドロとした思いがこの胸の奥にずっとある。それはいつからあったのか、自分でもわからない。しかし弟がΩだとわかった時、確かに感じたのだ。
――嬉しい、と。
Ωなら番にして一生、自分の元へ置いておける。
思ってはいけないことをあの一瞬、思ってしまった。鍵をかけていた箱を開けてしまった。
その一瞬を種は見抜いていた。
血の繋がった弟に対して持ってはいけない感情を持ってしまった罪悪感に、これは一時の気の迷いだとごまかした。
ダメだ、ダメだ。種は弟だ。種に相応しいαが見つかるのを望むべきだ。
喉の奥に何かを詰まらせたような苦しさに種へ返事も出来ずにいると、場違いな音がリビングに響いた。種の携帯電話が振動しながら鳴り、種がそっと実から離れた。
発情している種の熱い身体が離れたことで急に全身が寒くなった。
甘い声で電話の向こうの相手と話しているのをぼんやりと見ていた。何の話をしているのか、たまに艶やかな笑みを見せる種が全く別人に見えた。
「実ちゃん、今からここに人を呼んでいい?」
「え……」
携帯を片手に種がまたこちらに戻ってくる。実の前に膝をたてて座ると携帯の画面を操作しながら熱い息を吐いた。
「実ちゃんがしてくれないなら、別の人に抱いてもらうんだよ」
「種っ……それはっ」
「だって疼くんだ……どうしようもなく……早く誰かに抱かれたい。めちゃくちゃに抱かれて……項を噛んでほしい……」
自分の項を自分の手で撫でて、爪を立てる。
「実ちゃんに噛んでほしかったっ……他の男に抱かれながらいつも実ちゃんに抱かれることを想像してた……オレが誰かに抱かれてる姿を見れば……実ちゃんが気がついてくれると思ってたのに」
「……俺が……何を……?」
「嫉妬してオレを抱いてくれると思ったのにっ」
勝手なことを言うなと怒鳴りたかった。
不特定多数を相手に足を開いたのは種で、そんなことをしろとは一言も言っていない。あれは種が選んでやったことだ。
何人も何人もいつも違う男を連れて来て見せつけるようにいちゃつく姿に毎回嫉妬していたら身が持たない。それに種への気持ちをずっとごまかしてきたのだ、嫉妬するはずがない。
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