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第48話
居酒屋が多いからなのか深夜にも関わらず通りは明るく、すれ違う人達も酔いが回っているのか楽しそうだ。
「佑真さんまだ怒ってるかなぁ……」
立ち止まりスマホを見つめながら、まだ怒っているなら話かけない方がいいのかもしれない、もしかしたら寝ているかもしれないとボタンひとつがなかなか押せない。
「翔……?」
その声に顔を上げた瞬間、体中の血が凍ったように全身が冷たくなっていく。
「あ……」
嫌だ。逃げたい。そう思うのに身体が動かない。
「変わらないなお前は。そうやって怯えていれば誰かが助けてくれると思っているのか」
変わらないと言う兄さんの声もあの頃と同じ氷のように冷たいままだ。
「5年……いや6年ぶりか」
「こな……いで」
近付く兄さんから逃げたいのに身体は動いてくれず、声もうまく出ない。
「翔……お前――」
今なら兄さんに会っても文句のひとつでも言えるかもしれない、そう思っていた。
だけど実際は身動きひとつできず兄さんを前にしただけで俺が俺じゃなくなっていくような感覚に襲われる。
トラウマを克服できたと勝手に思っていただけで、克服できてなんかいないんだと思い知らされる。
握り締めたスマホの通知音に視線を向けると佑真さんの名前と帰って来いというメッセージが表示されていた。
「佑……真さん……」
「どういう事だ!?」
小さく呟く俺からスマホを取り上げ、俺と佑真さんのやり取りを見た兄さんの口調が強くなる。
「返して」
「どうしてお前が五十嵐と……!」
取り返そうとした俺の手首を掴む兄さんの手の冷たさに身体が震え出し、怒りで冷たく光る兄さんから目を逸らすこともできなかった。
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