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プロローグ

 息ができない。身動きがとれない。手首に食い込む縄はきつく、視界に広がるコンクリートの天井はどこまでも素っ気ない無機質さで俺を見下ろしていた。  脱がされたジーンズが床に放られる。少しだけ体を捩らせたが、簡易ベッドに固定された俺にできるのはそれだけだった。抗議の声も口に噛ませられた布のせいでくぐもったうめき声にしかならず、縛られた両手首は少し動かすだけで激痛が走る――気がした。  下着しか身に付けていない俺の脚が、男の手によって大きく広げられる。舐めるような視線が体中を這う。時折聞こえるのはシャッターが切られる音。こんな痴態を撮られていると思うと、恥ずかしさで目尻に涙が滲んだ。 「そそるよ、その顔」  囁きが耳朶を震わせる。 「――亜利馬(ありま)。凄いヤラシイ体」  男の指が俺の肌を這う。胸元から腹へ、それから唯一穿いている下着の上へ……こんな状況でも緩く反応してしまう、俺の男の部分へ…… 「はい、オッケーです!」  ぱん、と誰かが手を叩いた。それを合図に、今まで張り詰めていた空気が一気に和やかなものへと変化する。がやがやと周りがお喋りを始める中、俺の体に触れていた男がニコリと笑って俺から離れた。 「亜利馬くん、拘束外すね」  別の男がやって来て、俺の手首に巻かれた縄を解く。口を封じていた布が取られ、身を起こした俺の背中から白いガウンが羽織らされる。 「お疲れ様!」  誰かに肩を叩かれたが、俺はベッドに座ったままでしばし茫然としていた。  ――『亜利馬・最速コウソクデビュー』。  自分のデビューDVDのタイトルだけが、頭の中でぐるぐると回っていた。

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