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 その後は予定通りインタビューに答えて、いよいよ次は視聴者さんからの質問に答えるコーナーだ。 「えー、それじゃあまずは、……撮影で一番大変だったことって何ですか?」 「大変なことっていえば、とにかく初めてのことだらけで、気持ちと反対になかなか上手くいかないことがあるってことです。先輩やスタッフさんのお陰で何とかなってるんですけど、撮影の時は毎回『鼻血出さないようにしなきゃ』って考えて……」 「亜利馬くんの鼻血事情は、社内でも有名だもんね」 「え……そ、そうなの?」 「DVD見た人には伝わってると思うけど、撮影の時本気で恥ずかしがってるもんね。……えっと、それと同じような質問きてるよ。どんな撮影が一番恥ずかしいですか? って」 「それは、次のDVDを見てもらえたら分かると思います……詳しくはまだ秘密ですけど、お風呂でのシーンです……」  思い出してまた恥ずかしくなり、俺は両手で赤くなった頬を擦った。 「休日は何をしてますか?」 「家にいることが多いですけど、メンバーの誰かと休みが一緒の時はご飯食べに行ったりしてます。最近は大雅とランチビュッフェに行ったんですよ」 「ランチビュッフェって、またお洒落な感じだねぇ」 「昼飯食い放題!」 「いま大雅くんの話が出たけど、ブレイズメンバーで一番仲が良いのは誰ですか?」 「大雅は先輩だけど、齢が同じだからやっぱ話しやすいし仲良いです。人見知りするけど実はお喋りなんですよ大雅は。あの無表情にみんな騙されてると思いますけど、本当は感情豊かだし、優しいし可愛いんです。……って感じですね。基本的に仲はみんな良いです」  これ以上喋っていたら竜介に関する余計なことまで口走ってしまいそうで、無理矢理まとめておいた。ポロッと出てしまう余計な一言。それが生配信で一番恐ろしいものだ。 「一番エッチが上手いメンバーは誰ですか?」 「なっ、……んで、いきなりそういう質問するんですかっ」 「変化球も入れておこうかと思ってね。ある意味ストレートだけどね」 「えぇ……」  思わず両肘をついて顔を隠してしまったが、スタッフさんの『ひじついちゃだめ』という画用紙に書かれた指示を見て慌てて姿勢を正す。 「みんな、それぞれ……違う良さがあると思いますけど。AVの本番ってある意味演じてるとこもあるから……普段のそれとはまた、違うかも……ですけど」 「それでも敢えて選ぶとしたら?」  ……動画班的にはどうしても言わせたいのだろう、きっと。 「敢えて選ぶなら、……やっぱ、一番年上の竜介さんですかね。ベテラン感が、やっぱその、……色々と、良いんじゃないかなって思います、けど」 「亜利馬くん鼻血出てるよ」 「えっ、うそ……!」 「嘘なんだけどね。それじゃあ次の質問――」 「………」  このぬいぐるみ、高いだろうなぁ……殴ったら駄目だろうな。 「最後に、視聴者の皆さんに亜利馬くんからメッセージをお願いします!」 「はい。皆さん。まだまだ未熟な自分ですが、皆さんの声にとても励まされています。これからも精一杯頑張ります。ブレイズの応援もよろしくお願いします! 今日は本当にありがとうございました!」 「勝手にまとめないでね。最後に亜利馬くんからサプライズのサービスがあるらしいので、皆さんまだ画面消さないでくださいね」 「えっ!」  そんなの聞いてない。サプライズなんて台本にもなかった。 「え、ど、どうしよ? うーん、何がいいかな……?」  動揺しているのをバレないように考えるフリをしながら、スタッフさんに目で助けを求める。するとすぐに、スタッフさんが画用紙に乱雑な字で指示を書いてくれた――のだけど。 「………」 「えー、なんと亜利馬くんが特別サービスでおっぱい見せてくれるみたいなので、お願いしたいと思います。5秒前。4、3、2、1……」 「ああぁぁ、もおぉぉッ!」  半ばやけくそで、着ていたTシャツを思い切り捲る。 「それじゃあ、またの配信をお楽しみに! MCインヘルちゃんと、……」 「あっ、亜利馬でした……!」 「おやすみなさい~!」 「………」  配信が完全に終了してから席を立った俺は、機材を片付けるスタッフさん達の間を通って、部屋の端でインヘルちゃんの声を担当していた人に詰め寄った。 「お願いですから、台本にないことやらせないで下さいっ」 「あは、ごめんね。亜利馬くんの反応が良かったから、ついね」  インヘルちゃんそのままの声で返され、何だか気が抜けてしまう。首から下がった彼のネームプレートには「庵治」とあった。赤茶っぽい髪を雑なお団子でまとめていて、ツリ目で口元は笑っていて、その顔は何だかチェシャ猫みたいだ。 「あ、あ、あん……じ、さん? とにかく俺は――」 「おうじ、だよ。庵治武彦。動画班のインヘルちゃん担当」 「庵治さん。とにかくその……駄目です、あれは。台本通りじゃないと俺、やらかして迷惑かけちゃうので……」 「そうかなぁ。素の感じが凄く良いと思うけど。実際、視聴者さんの反応も良かったよ? 翻弄されてる感じが面白くて可愛いって。それに亜利馬くんは、イレギュラーなことにも対応できるようになった方が良いだろうし」 「……で、でもせめて生配信ではやめてください。変なこと言っちゃったら、山野さんに怒られるの俺なんですから」 「ごめんごめん、次から気を付けるよ」 「次からって……またあるかもしれないんですかっ?」 「会議の結果次第だね。アーカイブ動画の再生数にもよるしね」  庵治さんが満面の笑みで俺の横を通り過ぎ、テーブルに乗ったままだった「分身」を抱いて部屋のドアへと向かった。 「どうしたの亜利馬くん、早く行こうよ」 「行くって、どこに……」 「帰るんでしょ。僕が送って行くように言われてるから、車出すよ」 「……あ、ありがとうございます……」  良い人そうに見えて腹黒そうでもあり、何だか掴みどころのない人だ。  マンションに着いてから庵治さんが荷物を部屋まで運んでくれて、玄関先で縮こまった俺は何度も頭を下げて礼を言った。動画について文句を言ってしまった分、親切にされて少し決まりが悪い。 「すいません、助かりました」 「いいよ、体力仕事なら役に立てるから。それじゃ、ブレイズの皆にもよろしくね」 「はい。ありがとうございました……あ、あの。冷たいお茶でも飲んでいきますか?」  この暑い中、五階まで大量の荷物を運んでもらったのだ。麦茶の一杯でも出すべきかと思ってそう言うと、 「駄目だよ亜利馬くん、今日初めて会った男にそういう隙見せたら」 「でも……庵治さんは仕事仲間でしょ」 「そうだけど、君はモデルで僕はスタッフ。僕達は仕事外で必要以上に接触したら駄目なんだ。プライベートで部屋に上がるのもあんまり良くないしね。すっごい喉乾いてるけど、帰りにジュース買うから大丈夫だよ」 「ここで待っててくれたら、お茶入れて持ってきますけど」 「大丈夫だって。それに、僕の彼氏が寂しい思いして待ってるからさ。そろそろ行ってあげないとね」 「はあ、……」 「じゃあね亜利馬くん。お疲れ様!」 「お、お疲れ様です。ありがとうございましたっ……」 〈亜利馬、ライブ見たよ! 面白かった。潤歩と二人で爆笑しちゃった〉  適当に買って来た弁当を食べていたら、獅琉が電話をかけてきてくれた。仕事が終わってからライブを見て、今は潤歩と一緒に帰りの車の中らしい。 「ありがとうございます。ほんと緊張しましたよ」 〈庵治さんに見事に翻弄されてたね〉 「あ、あの人……ちょっとびっくりしたんですけど、いつもあんな感じなんですか?」 〈そうだよ。だから、ちゃんとやれるか大丈夫かなぁって思ってたんだけど。結果良かったから山野さんもOKだって言ってたよ〉  その言葉にホッとして胸を撫で下ろし、グラスの牛乳を口に含んだ。山野さんがそう言ってくれたなら、やった甲斐があった。 〈庵治さん良い人だけど変わってるよね。恋人のユージ君とは対極って感じで――〉 「っ……」  含んだ牛乳を噴き出しそうになり、慌てて飲み込む。 「あ、あの人の『彼氏』って、ユージさんなんですかっ?」  ヘアメイク担当の爽やかで優しいお兄さんと、動画班の飄々とした「インヘルちゃん」。真逆のカップルじゃないか。 「……ど、どっちがタチなんだろう」 〈お互いどっちもやってるって言ってたよ〉 「ひえぇ……!」

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