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第2話 百樹「そういうとこ、好き」
「すみませんでした」
「何に? 何に対してお前は謝ってんの?」
「百樹が掃除しなきゃいけないお風呂場の排水溝に俺の精液を詰まらせました」
「うんうん、わかった。わかったけどな、怜斗。俺としてはツッコミが追いつかないんだよ、わかる?」
風呂上がりでパンツ一丁の怜斗を廊下に正座させたまま、俺は怒りを露わにした。
どうしてこう、おぼっちゃま育ちな男は家事に対して無頓着なんだろう。
いや、俺が怒っているのはそういうところじゃなくて……。
「あのね、排水溝詰まらせたのは誰? お前だよな、怜斗。お前が俺をおかずに勝手にシコったザーメンが詰まったの。だったら掃除するのは誰?」
「百樹?」
「違えだろ! ったく、全部の家事を俺に押し付けやがって。俺はお前のかーちゃんじゃねえぞ!」
怜斗と同棲を始めてそろそろ半年が経とうとしているが、家事の全てが俺の担当になっていた。
最初の頃は別に良かった。大学くらいからずっとひとり暮らしをしていたから、料理や洗濯に掃除などひと通りできる自信もあったし、実際困らなかった。
だけど、同棲相手が金持ちの家で生まれ、三十にもなってカップラーメンの作り方すら知らないーーそもそもヤツはカップラーメンを食うのかーー男との同棲はストレスが溜まる一方だ。
食べ終わった食器は水に浸けておいてだとか、脱いだ靴下は裏表直してから洗濯機に入れてだとか、掃除に関しては電動ロボット君がこなしてくれるが、怜斗は彼を充電しようともしない。
って、俺のグチはどうでもいい。
「とにかく! 今日の排水溝掃除はお前がやれ! 以上!」
「ええ……俺だって毎日遅くまで仕事していて大変なのに……」
「うるせえ俺だって社畜だ。社畜なのに家事全般をこなして朝お前を送り出して遅くとも日付を越える前に帰って洗濯したり翌朝の仕込みしたりする。すごくね? 俺を褒めろよ。さあ。」
「……すごーい。モモちゃん、すごーい」
「はあ?」
「モモちゃんすごい。俺にはできないよ。こんな俺をちゃんと叱ってくれるなんて。それからいつもありがとう。百樹がいてくれるから、俺はついつい甘えちゃう……こんな俺、かっこ悪いよな……」
出たよ。モモちゃん攻撃。
一見冷徹に見える男からの『モモちゃん』呼び攻撃。
こんな怜斗なんて……。
なんて……。
「そういうとこ、好き」
「へ?」
「あーーー!!! もう!!! そういう顔面良いクセにド変態なのにちょっとヘタレだけど自分の弱みを素直に曝け出してくれるところが俺は好きなんだよ!!!!!!」
「それは……俺、褒められてる? のかな?」
「そーだよ! 褒めてるよ! 悪いか!!」
「悪くないです……」
ついつい俺が暴走してしまい、怜斗を置いていけぼりにしてしまっていた。
怜斗がくしゃみをしたので、俺たちはーーそう、実は俺もパンイチだったのだーー視線を合わせ、どちらともなく頷いた。
「ベッド行こうか」
「お、おう……」
こういうときだけ怜斗はスマートに俺の腰に手を回し、俺たちの寝室へと誘った。
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