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序章

 地上より遥か彼方に、天上界と呼ばれる地がある。死した者が必ず逝く冥界と呼ばれる世界とは異なり、そこにはあらゆる神々と共に、神に等しい格の高い魂が神官となって仕えていた。  そして、地上の出来事を時には見張り、またある時には見守り、地上の全ての生き物たちが悪事に手を染めれば制裁を与え、その逆に善行を働けば幸運や神の祝福を与える。  全ての生き物は神々にとって子どもに等しいのだが、時には血も涙もない罰を下さなければならないので、感情移入し過ぎてはいけなかった。  その中でも、あらゆる神々の祖であり、親のような神がいた。その神は天上界より世界を見下ろし、何かに気が付いて目を細める。 「どうされました?」  神の視線に気が付いたのは、多くの善行を成し遂げ、神官にまで上り詰めたマトリだ。名前から麻薬取締官を連想しがちだが、生前は僧侶を勤めていた。無論、生前に使っていた名前はとっくに捨ててある。  神はマトリに向かって、厳かに言い放った。 「あの者を捕らえよ。今までは目をつぶっていたが、ついにやってはいけないことまで手を出した。我が自ら罰を下そう」 「はっ」  マトリが頭を下げ、急いで下界に干渉するための手はずを整えていく傍らで、神は自らの実体のなかった体を人型に変形させていく。そしてあっという間に厳めしく体格のいい男の姿になると、改めて下界のある人物を睨みつけるように眺めた。 「こうしてお前の子孫を改めて痛めつけることになるとはな。これも我が神たる故の宿命か」  神の瞳に疲労と哀しみの色が浮かぶが、それは一瞬のことで、マトリが声を掛けた時にはすっかり消えていた。

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