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 カーテンで閉め切られた薄暗いその部屋は、噎せ返るほどの甘ったるい匂いで満たされていた。  例えるなら、花の匂い。  気を張っていないと身体ごと持っていかれそうな匂いの発生源は、部屋の隅に置かれたベッドの上で浅い呼吸を繰り返していた。 「はー……っ、はぁ、ぁ……あっ、あ……んぁ!」  身体が熱いのだろう、彼お気に入りの青い布団は床に落ちている。故に、彼がベッドの上で何をしているのか、部屋の入り口からでもすぐに判った。  彼は寝間着のスウェットを膝までずらして、身体の中心で硬く疼く熱を自ら慰めていた。その細い指が彼のイイトコロを掠めるたび、彼は大きく身体を跳ねさせながら反応する。 「あ、っ……あ、あぁ! ん、んぅぁあ……!」  ぐりぐりと先端を擦れば、だらしなく開いた口からはたらりと唾液が零れる。  空いた手で自分の乳首を服の上からかりかりと引っ掻いて、彼は欲望のままに快楽を貪っていた。  彼がはぁ、と浅い呼吸をするたび、甘い匂いは強くなる。その匂いに中てられたのか、一樹(いつき)は眩暈を感じて部屋の扉に手を付いた。 「い、っ……いつき、いつきぃ……んっああ、あぁッ、ああぁ!」 「! ……あ、梓」  竿を緩く握って、それをぐちゅぐちゅと擦りながら梓が上げる嬌声。  それに自分の名前が乗ったとき、一樹は耐え切れず彼の名前を口にした。  しかし判っているのだ、そんな呼びかけで今の梓が止まるはずもない。  その程度で止まるのなら、この行為に抑制剤など要らないのだ。 「い、っ、いつき……っ? ん、んん! あ、あぁッ、たすけ、あ、んあぁあぁあッ……!」  むしろ一樹が居ると判って、梓はより一層の快感に襲われたようだった。  一樹の姿を目に映した瞬間、梓は背を反らしてびくんと身体を跳ねさせた。  その痙攣に合わせて、彼が握っていた熱の先端からは、ぴゅくぴゅくと勢いのない液が滴り落ちる。その脈が鎮まるまで、一樹はそれから目が離せなかった。  しかしそのままだと、すぐに行為は再開されてしまう。 「あ……大丈夫か? 薬は? いつもの所か?」 「ん、うん……っ、つ、机の……ん、ぁ、引き出しの……っ」  焦った一樹は急いで扉を閉めると、梓の言う机へと駆け寄った。  引き出しの二番目。梓が自力で抑制剤を飲もうとしたのだろう、そこは少しだけ開いていた。  ただ、今の梓が錠剤一つで止まるとは思えない。一樹はその隣にあった注射器を手に取ると、梓を振り返った。  瞬間、どくんと心臓が跳ねる。

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