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第5話

だけど、予想外なことに、詰め終わったその袋を俺が持ち上げる前に環がそれを掴んだ。散々俺に持つように命令してきたくせに、環が持ってくれるの? と顔を上げて見つめれば、さっと目を逸らして行くぞと小さく呟いた。学校からこのスーパーまでの距離と、スーパーから家までの距離は倍近く違って遠いから、環が持ってくれるという気遣いをしてくれたことがたまらなく嬉しい。 怒鳴る環も叩く環も、俺だけに冷たい環も大嫌い。……嫌いなのだけれど。こうしてたまに優しくしてくれる環はとても好きだ。  それに、体育の時間でもホームルームでも授業でも何でも、何人かのグループになっての活動がある時には必ず俺のところに来てくれるのだ。お前には俺しかいないだろ、とでも言うかと思えば、お前は俺がいいんだろ? ってそうニタリと笑うのは腹が立つけれど。 だから余計に意地悪する環が嫌いだと感じるんだと思う。俺はもっと優しくして欲しいのに、環はたまにしか優しさをくれないから。……俺はMじゃあないし、環の前で泣いたりはしないから伝わらないのかもしれないけれど、冷たく扱われる度にかなりのダメージを受けている。    他の皆より多くの時間を共に過ごしてきたのだから、その分誰よりも特別な存在になるのでは? 俺がコミュ障で環としか遊んでこなかったし、今でも環に頼ることばかりで、そのせいで実は呆れているの? 好き── 「……なのになぁ、」 俺は環のこと、好きなのになぁ。 「は?」 「何でもない」 幼なじみとしても、そういう意味でも。俺の狭い世界では、環があまりにも大きな存在で、だから環しか見えてないこともきっと影響しているのだろうけれど、それでも。それでもね、環のことが好きなんだ。だから嫌い。俺にだけ優しくしてくれない環は大嫌いだ。 「……っ、」 視界に入ってくる買い物袋にそっと手を伸ばしたところで睨まれてしまい、その手をすぐに自分の背中へと回した。重いから半分こしようねと二人で買い物袋を持っていた過去を懐かしく思いながらも、もうそれはきっとこれからは思い出の中だけしか見られない光景だと悲しくなった。環は変わってしまったもの。素直な彼には会えない。 「奏」 「なに、」 「クラスの女子に話しかけられるなよ」 「え?」 睨みつけていたから何を言うかと思えば、女子に話しかけられるなって、学校を出てから時間が経った今になってそんなことを言うの? もしかして教室でのあの態度は、俺が女子に話しかけられたからだった? ちょっと待ってよ、環くん。それは君の取り巻きじゃあないか。   「それは、環が連れて来たんだろ。俺が望んだわけじゃあない」 「連れて来てない。勝手について来たんだ」 ついて来た? あれだけ王子様のように振る舞っていればそうなるだろ。全ては環が原因じゃあないか。

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