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第4話

ばか。ばか環。小指をぶつけて痛みに苦しめ! 環の背中を睨んで、心の中で悪口を言った。……だけど、俺の意識はだんだん握られている手に集中していく。いや、握られているんじゃあない、掴まれているんだった。 「……っ、」 掴まれてるのは手首なのに、緊張してきて手のひらには汗が滲む。俺はいい加減に離してもらおうと、彼の背中に向かって名前を呼んだ。 「たまき、」 野菜売場の前で彼の足が止まる。それから、俺の声に反応してくれたらしくこちらを向いてくれた。でも、今まで以上に顔が怖い。店に入る前の「今日はオムライスがいい」発言をしてからこの野菜売場までの数メートル。それだけの距離で一体どうすればここまで不機嫌になれるのか。無言で見つめていると、環がゆっくりと口を開いた。 「おい、お前さ」 「……なに」 「カゴは?」 「え?」 きょとんとする俺に対し、環の眉間のしわが増える。 「何で入り口で取って来ないんだよ」 「……え?」 「え? じゃねぇよ、このバカが。お前がカゴ取らないで誰が取るんだよ」 俺の手をさらに強く掴み、環が俺に怒鳴る。けれどやっぱり抜かりない。俺に顔を近付けて、周りには聞こえないように怒鳴るんだもの。そうして今度は掴まれていた俺の手を解放し、環はまた俺の頭を叩いた。さっさとカゴを取りに行って来いと、そういうことらしい。 言われた通りにカゴを取りに行くことにしたものの、自分でも自分が可哀想になってくる。怒鳴る環も叩く環も俺にだけ冷たい環も大嫌い。嫌い嫌い、すっごく嫌い。 ……と思っているのだけれど。 「はぁ、」 環のところにカゴを取って戻ると、彼は持っていたレタスとキュウリとトマトを俺が持ってきたカゴの中に入れた。……うん、サラダも食べるのね。 野菜はあまり好きじゃあないくせに、こうしてカッコつけるんだから。小さい頃は俺によくトマトを押しつけていた。今だってまだ克服できていないのに、食べられるようになったふうに装う。トマトを食べてそれを飲み込む前に味の濃いおかずを口に詰め込むのを俺は見逃していないからな。 そんなことを思いながら、無言のまま目だけで行くぞと言っている環に大人しく付いて行くと、チキンライスに必要な鶏肉とタマネギとニンジンを、カゴを持っている俺も、その野菜も気遣うことなくカゴに突っ込んだ。体力のない俺には少しだけキツい重さ。そして、最後に環がジュースが飲みたいと言って、数本のジュースも入れた。 もう限界だと、手が悲鳴をあげる。だって今日はただでさえ科目数が多かったのだ。教材がいつもより多いし、体育だってあったから体操服も一式入っている。そこにこのカゴの重さだ。俺にはもう無理。 「環、重いよ」 「うるせぇ、さっさとレジに持って行け」 「……うぅ、」 そうするしかない俺は、代わりに持ってはくれない環に何も言えず、言われた通りにレジへと運ぶ。ピッとレジを通してもらいながら、親から預かっていたお金も俺が持っていたことを思い出し、取り出そうと財布を引っ張った時、後ろにいた環に無言で奪われた。 どうやら会計は環が済ませてくれるらしく、俺はレジを通し終えた食材をさっさと袋に詰めておけ、ということらしい。再び重いカゴを持ち上げて袋に詰める台へと運び、それから俺は急いで袋に突っ込んだ。早くしなければ、まだ入れ終わっていなかったのかと環が怒るだろうから。 環のパシリじゃあないのにどうしていつも俺ばかりこんな目に、とぶつぶつ心の中で文句を言いながら袋に詰めていると、案の定支払いを終えて来た環に早くしろと怒鳴られた。

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