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第3話

また明日ね、とぽんぽん俺の肩にまで触れる女子たちをやんわりと拒否し、ぺこりと頭を下げたとろこで完全に解放された。けれど、ほっとしたのも束の間。 「さっさと、帰んぞ。ばかなで」 ……出た。大魔王環くん。女子たちがいなくなって、二人になった途端にこれだ。 どうしてこんなにも態度が変わるのだろうか。いつも他の人たちに対して優しくしているように俺にも優しくしてくれればいいのに。どうでもいいはずの女子たちには優しくて、幼なじみの俺にばかりひどい当たりよう。それはおかしくないか? ってそんなことは言えない。大魔王環くんを怒らせると怖いから。 でもやっぱり、ちょっとは反抗したくもなる。 「……大魔王、うるさい、」 聞こえても何を言っているかは分からないくらいの小さな声でそう呟いてみた。けれど大魔王は地獄耳だったらしく、足の指を彼のかかとで思いっきり踏まれてしまった。 「った、」 「お前が悪いんだろ。家に帰ったら説教な」 「なんで、」 「お前が悪いから」 なんて勝手な奴なんだ。俺の何が悪いのかそう聞いても何も答えられないくせに。大魔王呼びくらい、環の俺に対する態度と比べれば可愛いものだろうに。そう思ってイライラするけれど、人って何なんだろう、本当に。こんな時でもしっかりと思い出すんだよね、大切なことを。……今日はどちらの親もいないから、ご飯は二人で食べなさいと言われていたんだった。 親にいつも料理を手伝わされていた俺はたいていのものは作れてしまうから、どちらの親もいない時は俺が環に夕飯を作ってあげるとずっと前から決まっているのだ。それに関しては環も「お前の作ったものなんか食えるか」と文句も言わず、大人しく出されたものを食べている。 そして、ちゃっかりスーパーの前で足を止めた環。大魔王環くん、やはり覚えていたのかと、逃げられないことにショックを受けた。 「何が食べたい?」 そう質問しながら、店に入ろうとする環の制服の裾を掴む。人の多いこの時間帯の店の中になるべくいたくないから、入る前に買うものを決めたいんだ。 「環、何が食べたい?」 掴んだままじっと見つめると、環が「ばっか、んなとこ掴むんじゃねぇよ!」と顔を真っ赤にして怒鳴った。……え、触るのもダメなの? しかも直接肌に触れたわけでもなく、制服の裾なのに。服越しでもダメって、環はどれだけ俺のことが嫌いなのだろうか。女子には絶対にやらない拒否。こういうところでの変な特別感は嫌だ。……差別じゃあないか。 ごめん、と言って手を離すと今度は頭を叩かれた。 「った、」   「ばかなで」  「何で、叩くの」  「叩きたくなったから」 「痛いよ……」 「それはお前が痛いと思うからだろ。痛いと思うな」 「めちゃくちゃじゃん……」 環が何を考えているの全然分からない。もうこんな奴のことで落ち込むのやめよう。そう思い今日はオムライスでいいやと勝手に決めて店に入ろうとした時、後ろで環が「今日はオムライスがいい」と言った。そう言って俺の手を掴む。考えていることが同じで、しかも環の口からオムライスという可愛いワードが出たことに笑いつつも、触れることを一度拒否したくせに俺の手を掴んだ環には驚いた。 「たま……き、手……」 「あ? うるせーよ黙れカス」 「だから何で、そんなこと言うの」 勝手すぎる環にキレたところで俺に勝ち目はない。悔しいけど言い合いでも何でもいつも俺が負けてしまう。言い合いというか、一方的にひどい言葉を吐きかけられて終わるだけなのだけれど。

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