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第7話

◇ 自習って、どうしてこんなにも暇なのだろうか。担任に急な用事が入り、今日の最後の授業が自習になった。急な用事だから課題も何も与えられていない。各自で勉強をやっておけと先生はそう言ったけれど、一体誰がまともにするっていうんだよ。 教室を何となく見渡せば、みんな前後左右の奴らと楽しそうに会話を始めている。そんな中でやっぱり一人ぼっちな俺。俺の席はグラウンド側の前のほうで、環の席は廊下側の後ろだから、俺には話をする相手がいないのだ。 眠ろうかとうつ伏せになってみたけれど、全く眠くならないから中途半端な姿勢が苦しいだけで、仕方がなく落書きをすることにした。みんなの知らない大魔王環くんを。ファイルの中から帰って捨てるつもりだったプリントを取り出す。 怒った時の目はすごく怖いんだぞと、いつも見ている大魔王環くんを思い出しながらシャーペンを動かした。絵を描くのは得意じゃあないけれど、思ったよりも上手く描けている気がする。 それが何だか嬉しくなって夢中で描いてると、机の端の方に置いていた消しゴムに手が当たってしまった。あ! っと思った時にはもう、消しゴムは机の上から消えて、ころころと前の席の方へ転がっていった。 大魔王環くんを描いていたから、呪われたのだろうか。通路ならまだしも、前の席の人の足下に落ちてしまったらどうすることもできない。今すぐ自分で拾うにしても、取ってくださいと頼むにしても、俺にはハードルが高すぎる。落書きは中止にして、落ちた消しゴムはこの自習時間が終わってから拾うことにしようと諦めた。 でもその時、最悪なタイミングで前の席の人が足を動かし、その人の足に消しゴムが当たった。ん? と違和感を持ったらしくその人が足下を見る。それから俺の消しゴムを手に取った。絶対に避けたい展開になりそうで、俺のノドが緊張でゴクリと鳴る。 「ねぇ、これ。奏くんの?」 振り返ってそう聞いてきたのは、木下さんだった。ここにきてやっと前の席の人が誰だったのかを把握する。最近席替えをしたばかりということもあるけれど、俺はあんまり周りを見てないから。一応クラスメートの名前は覚えていても誰がどこに座っているのかは、さっぱり分からないのだ。 じっと俺を見つめる彼女から目を逸らし、こくりと頷くと消しゴムが机の上に置かれる音がした。そのまま目を合わさずにゴニョゴニョとお礼を言う。失礼だって分かっているけれど、これでも頑張ったほうだから仕方ない。 木下さんは「はいはぁい」と言って、体を前に戻した。そう言えば彼女が環の周りにいたことはないし、俺にしつこく話しかけてきた記憶もない。あっさりと会話を終わらせてくれたことに感謝をしながら、うつむいていた視線を戻した。

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