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第8話

と同時に、なぜか木下さんがまた俺の方を振り返る。あれ? 会話は終わったんじゃあないのか? 慌てて目を逸らそうとするも、「ねぇ、」と言う彼女の笑顔が怖くて目が逸らせない。何となく、大魔王環くんと同じ匂いがした。 「奏くんさ、これ誰描いたの?」 「……えっ……と、」 「もしかして環くん? ツノが生えているけれど、これ環くんでしょ?」 ね? と彼女が俺の顔をのぞき込む。……こ、怖い。 なかなか「うん」が言えなくて、情けないけれど俺はぎゅっと目を瞑って固まった。 それが環だったらどうするつもりなのだろう?俺を怒るのかな?  終わった会話がまた始まってしまったことも、これから何かきっと言われてしまうことも何もかもが俺を憂鬱にさせる。 「この環くん、私のイメージにピッタリ」 けれど、聞こえてきた言葉は意外な言葉で。え? と思わず目を開けてしまった俺を、彼女はへへっと笑って見ていた。 「環くんてさ、みんなの前では優しいから王子様って思われているけれど。私の中では、どうもそんなイメージはないんだよね」 一体どういうことなのだろうか。環はみんなの前では本当に優しいのに。俺へのあたりはキツいけれど、それは二人きりの時だけのこと。それなのに木下さんは何を見てそう思ったのだろう。もしかして、環のことを嫌いなのかな? もし環のことが嫌いならそれはどうしてだろうと、少しだけ興味が湧いた俺は、頑張って彼女の話を聞くことにした。そんな俺の態度に気づいたのか、彼女は体ごと俺の方に向けた。 「実際そうじゃない?」  「……なんで、そう……思う、の? 木下さんは環が、嫌い?」 「いやいや、全然嫌いじゃあないよ! 悪いイメージがあるってことでもなくて、私の妄想なのたけれど。奏くんに対してだけ、素直になれなくていじめちゃう、とかおいしいなって思うわけよ」 …………はい? ぽかん、とかなりの間抜け面をしたのだと思う。彼女は俺の顔を見て大笑いし始めた。 「あははっ。奏くん、可愛い」 「……? どういう、こと……」 「そもそもさぁ、奏くんが環くんとだけしかまともに話ができないっていうのが、最高に良いわけ」 「………え?」 「だってそれ、すごく特別なことだと思わない?」 木下さんの表情も声も輝き始め、それに驚いてびくびくするも、やっぱり話の内容が気になりすぎて、今すぐ会話を終わらせてどこかに隠れたい気持ちよりも興味の方が勝ってしまう。膝の上に置いた手をきゅうっと握りしめた。 「……とく、べつ、?」 「うん、特別! だって奏くんさ、話をするしないの前に、環くん以外では表情すらも変えないじゃない? いつも無表情だよね。それに今だって、珍しくこうして会話をしてくれているけれど、環くんの話でなければ聞いてくれなかったでしょう?」 「……っ、」 言われてみれば確かに、ということだらけだ。まぁ環以外とは話をしないからというのもあるけれど、基本的にあまり人にも興味ないから、気持ちを言葉にして伝えることはもちろん、それを表情にすら出した記憶もほとんどない。話しかけられて困った顔をすることはよくあっても、それ以外では無い気がする。 納得してゆっくり頷くと、木下さんは手を伸ばして俺の肩を叩いた。それにびっくりして目を見開くと彼女は、また楽しそうに笑う。 「奏くん、たまにはこうやって環くんについて話そうよ」 「……え、」 「二人のこと、色々と知りたいな」 「……なん、で」 「何で? ってそりゃあ、私の萌えだからに決まってるじゃん」 「……も、え?」 「うん、萌え」 ん? 何を言っているの?

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