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第10話

「環?」 「……。」 「……環?」 教室を出ても、靴箱で靴を履き替え校門を出た後も、環は返事をしてくれない。何度も呼んでいるのに、それをうるさいと怒鳴ることもなく、怒って叩くこともしない。 「環……?」 今までになかったことで、急に不安になってきた。環が何を考えているのか分からない。怒る時は怒鳴って、照れる時はたいてい黙る環だけれど、黙っているからといってこの状況に、照れは一切関係のないことだ。 「環、ねぇ、環っ、」 結局この状況は帰宅するまで続き、やっと家に着いたと思えば今度は環の部屋に連れて行かれ、ベッドに投げ飛ばされた。いつも以上に優しさが感じられない。 「環っ、」 ベッドに俺を投げ飛ばしたこの状況でさえも、何も言葉を発さない環が怖い。 「たま、き……!」 ギシリ、とベッドが軋む。環もベッドに上がり、俺を覆うようにして跨がった。視線を横にやればすぐそのには環の手があって。閉じこめられていて、今さら抵抗したところで絶対に敵わない。これから何をされるのだろうかと、ぎゅっと目を瞑ると、叩かれて感じるような痛みではなく、唇に温かな感触がした。……え? 何が起きたのかと恐る恐る目を開けてみると、目の前にあるのは環の今にも泣き出しそうな顔だった。 「たま、き?」 「……んだよ、」 「……え、」 「何で楽しそうに話してるんだよ! 俺以外とは話すなって言っただろ!」 「んっ!」 もう一度、唇を塞がれる。さっきとは違う、激しいキス。唇を何度も噛まれ、無理矢理口内に舌をねじ込まれる。呼吸ができなくて苦しい。 やめてくれとの意味を込めて強く環の胸を叩くと、髪の毛を掴まれ引っ張られた。抜けそうなくらいの強い痛みと苦しさに、俺の目から、涙がこぼれた。今まで何をされても泣かずに耐えてきた俺だけれど、今回だけは環が怖くて我慢できなかった。 大魔王環であっても、こんなことは今まで一度もしなかったのに。 「……っ、」 俺の涙に気づいたのだろうか。環はキスをやめると、髪の毛からも手を離した。 「たま、き、」 「変わらなくていいじゃん、」 「……え?」 「今までだって、俺以外とは関わらなかっただろ」 「たまき……、」 「答えようとするところまでしかできなかったくせに、どうして楽しく会話してるんだよ。自分から背中叩いて、ばかじゃねぇの、」 環が掠れた声で叫び、何度もベッドを殴る度に振動で揺さぶられ息が止まる。それに反して涙はずっと溢れたまま。 「お前は!」と、環が怒鳴る。けれど、そう言った環の目からも涙がこぼれた。俺の頬にぽたりといくつも落ちてくる。 環は、どうして泣いてるの? そっと手を伸ばし頬に触れてみると、今度は彼の涙が俺の手に伝った。温かいその涙に、唇を噛みしめた。 「他の奴と、話さないで。俺だけを見ててよ。俺以外のこと、考えないで。俺以外の奴に、触れないで」 彼の睫毛が小さく揺れる。ああ、また。ぽたりと、涙が落ちた。

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