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エピローグ

 月日は流れ、過ぎていく。  アイツと過ごしたのはほんの数日。…………でも、アイツがいなくなって、胸に穴が開いたみたいだった。 「ニャーン」  隣の家の塀の上にいる猫に目を奪われる。 「━━レイン?」  声をかけると猫は見向きもしないで、行ってしまった。  『猫になりたい』お前がそう言ってたから、暇を見つけては道端の猫ばかり見てる。  近くにはいないかもしれないし、話もできないかもしれない。それでも……  お前に会いたい…………  レインが好き。  失ってから気付いた俺の恋心。  首輪をしてる黒猫が俺の前を横切り、フラフラと近寄る。猫に気を取られていてたら、人にぶつかってしまった。 「すみませ……」顔を上げて、固まる。 「いえ。こちらこそ」  この声…………!!泣きぼくろ!ぶつかった男の顔を見て、死ぬ程、驚いた。 「…………レイン!!」 「なんで、俺の名前……」  そこには驚いた顔をしているレインがいた。 「俺だよ。レイン! まさか、俺のこと、忘れたのか?」 「レイン?俺は(れい)です。 あの。申し訳ないですけど、覚えてなくて」  お辞儀をしてからレインは行ってしまった。少し先のケーキ屋の前で足を止めている。  人違い?いや。顔、ホクロの位置、声、喋り方、仕草。ケーキが好きなところ。  あれはレインだ……  ━━━━人間になってる。記憶はない。  『重罪は人間や犬猫、酷いと虫にされることもある』。出会ってすぐの頃の話を不意に思い出す。アイツが猫になりたいとか言うから、可能性があるなら、猫に転生だと思い込んでた。 「…………なんだ。そうか。ハハ……」  一人で笑う俺を黒猫が不思議そうに見てる。  それとも、『連れて行かないでくれ』という俺の願いは誰かによって叶えられたのか……?いつの間にか、寿命を取られたのかもしれない。━━でも、嬉しくて走り出す。  今までは、皆、離れていっても追いかけなかった。 「待って!!」  記憶がなくても……  俺のことをもう好きじゃなくても……    今度は諦めない。  ━━━━何度だって、振り向かせてみせる。 「…………ねぇ。運命って信じる?」  レインの手を掴み、目を見つめる。    俺達の始まり。ベタなレインのセリフを思い出しながら、一言一句、そのまま返す。 「俺は泉。一緒にケーキ、食べない?」  声をかけると、レインの頬が赤く染まった。 [END]

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