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第14話 元妻の忠告

 三月の突然の言葉に、沢井は形のいい眉をひそめた。 「どうして?」 「黒崎はとても優秀な人材よ。だから雑事に煩わされずに成長して欲しいの」 「なんだよ? それ。オレがあいつを想うのは雑事かよ?」  三月の目を、沢井の切れ長の瞳が鋭く睨んだ。 「そうよ。それでなくても黒崎は複雑な事情を持っている子よ。あなたも知っているでしょう? 黒崎が大きな会社の一人息子だってことは」 「ああ。部長からチラッと聞いたよ」  そう、沢井の思い人は、会社の跡取り息子にもかかわらず、家督の権利を捨て、医師への道を選んだという話だ。 「……この前、学会で黒崎が卒業した医大の教授と話す機会があったんだけど、その教授、黒崎のことをよく覚えていたわ。稀にみる勤勉な学生だったそうよ。合コンの類には一切参加せず、バイトをいくつも掛け持ちして。それでも成績はいつもトップクラスで。……あの子は真面目で繊細な子よ。あなたが中途半端に手を出したりしたら、傷つくのは黒崎なのよ」 「オレは、中途半端にするつもりはないよ」  元妻を、真っ直ぐに見据え、沢井は言った。

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