13 / 109
第13話 バツイチ
エレベーターの扉が開き、沢井の元妻である三月が乗ってきた。
彼女は沢井を一瞥すると、視線を合わさずに話しかけてきた。
「さっき、黒崎の様子を見てきたわ。眠っていたから起こさないでおいたけど。……昨夜は大変だったみたいね」
「ああ。びっくりしたよ。出入り口のところでしゃがみ込んでいるかと思ったら、そのまま気を失っちまって」
「……かわいそうに。ずっと痛みを我慢していたのね。全然気づけなかったわ」
「あの状態で、外来に出て、急患の治療にも当たって……。それも完璧な仕事ぶりだったんだからな。おまけに、あいつなんて言ったと思う? それほどの痛みではありませんでしたから、だよ? それもいつもの無表情で」
沢井は、昼過ぎに黒崎と交わした会話を思い出し、溜息をついた。
「怪我の具合はどうなの?」
「もう大丈夫だろ。手術は成功したし、熱も下がって来てる。あとは安静にしてれば、若いんだ、すぐ良くなるさ」
「そう……」
三月は安堵したように言った。
少しの沈黙のあと、三月は、今度は沢井のほうをキツイ目で見据え、口を開いた。
「黒崎に手を出そうとしてるのなら、やめなさいよ」
ともだちにシェアしよう!