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第16話 優しさというもの

 傍に人の気配を感じて、黒崎は目を覚ました。  見ると、沢井が点滴を取り換えている。  ふと目と目が合い、沢井が優しく笑いかけてきた。 「悪い。起こしちまったか。気分はどうだ?」 「……ええ、はい。大丈夫です」 「熱も微熱まで下がったし、経過は順調だよ」  沢井は点滴を新しいものに変えると、傍にある椅子に座った。 「……もう、遅い時間なんですか?」  黒崎は窓の外の闇を見て、彼に聞いた。 「十一時過ぎ」  沢井は腕時計に目をやって答える。この病室には時計がないのである。 「川上先生から聞きました……。沢井先生、一昨日も当直だったのに、オレのせいで昨日まで泊りになったって……。オレ、もう平気ですから、帰って休んでください」  仮眠はとっているのだろうが、やはり体は疲れているはずだ。  沢井は苦笑を浮かべる。 「川上のやつ、おしゃべりだな。オレなら大丈夫だよ。おまえは自分が良くなることだけ考えてろ」 「でも……」  尚も黒崎が言葉を続けようとすると、沢井はとても優しい微笑みとともに言った。 「優しいんだな、黒崎は」

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