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第20話 未知の感情
沢井は黒崎を見ると、少し困ったように微笑んだ。
「やっぱりもう退院してきたのか。本当はあと一週間は入院が必要だったんだから、絶対に無理はするなよ、黒崎」
「はい……」
黒崎は返事を返しながらも自分の心拍が速くなるのを感じていた。
ここ最近、沢井と接するとき、奇妙な緊張感に見舞われる。
それは決して嫌な感じの緊張ではないし、不快でもない。
だが、黒崎が今までの人生で経験したことのない未知の感情だった。
職場に復帰してから一週間が過ぎた、ある昼休み。
黒崎は病院の屋上で手すりに腕を乗せ、空をみていた。
仕事のほうはほとんど以前と同じようにこなす日々が戻って来ていた。
空は雲一つなく、どこまでも高く青い。
こんな一見穏やかに見える日でも、病院は相も変わらず忙しい。
昼休み、といっても、二時半を過ぎてからやっととれた休み時間だ。
黒崎は小さく溜息を漏らすと、白衣の袖からのぞく、少し細くなった自分の手首に視線を落とした。
怪我のせいでずいぶん体重が落ちた。
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