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第26話 まっさらな彼
「ないって? まったく? 嘘だろ……。だって、おまえモテるだろ?」
「さあ、どうでしょう……」
黒崎は興味なさそうに答える。
「どうでしょうって……。好きですとか告白されたり、ラブレターもらったりしたことあるだろ?」
「ああ……、それはありますけど。勉強とバイトで忙しかったんで……」
「じゃ、黒崎、おまえ、もしかしてキスしたこと……」
「ありません」
綺麗なポーカーフェイスできっぱりと黒崎は答えた。
そんな黒崎に、沢井は重ねて訊ねた。
「じゃ、……セックスしたことは――」
「ないですけど。それが、なにか?」
さすがに少しムッとした表情になった黒崎が、愛想の欠片もない声で聞き返してきた。
「……いや。別に」
沢井は、信じられない気持ちで、感動していた。
ほんとかよ? この容姿端麗さで、まだ童貞? それどころかキスの経験すらなし?
奇跡だよ、それって。
「あの、オレ、もう戻ります。……サンドイッチとコーヒー、ごちそうさまでした」
沢井のセクハラまがいの質問攻めに辟易したのか、黒崎は深くお辞儀をすると、屋上の扉へ向かって歩きだした。
彼の後ろ姿を見送りながら沢井は、クールさが自慢の顔が、うれしさで緩んでくるのを抑えることができなかった。
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