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プロローグ

 20世紀末。  日本のロック界で、空前の四百万枚のメガヒットを飛ばした男がいた。  立花全(たちばな あきら)、サディスティカル・パンク・バンド「ROSE」のドラマーであり、コンポーザーであり、プロデューサーである。 ステージ・ネームはZENN。 ゆるやかなウェーブの長い金髪に、日本人らしい端整な顔立ちという彼のルックスも、少女達を熱狂させた。  そんな彼は自らのインディーズ・レーベル「ギルティー・レコード」の後輩バンドをもメジャー・デビューさせ、ZENNがプロデュースした彼らのアルバムはどれも五十万枚を超えるヒットとなった。 それがきっかけで、ZENNはメジャー・レーベル「ギルティー・グランデ・レコード」を設立。 傘下のバンドも集結し、ここにインディーズ、メジャーにまたがり、日本のロック界を牛耳る「ギルティー帝国」が成立したのだった。 「音楽も、アーティストも、ステージももっと華麗に、過激に。」  ROSEのこの主張を現実のものとし、帝国を築くもととなったのが、 パンクとヘヴィ・メタルを融合させた独特のサウンド「サディスティカル・パンク」であり、 色鮮やかなコスチュームから始まった、グラビアやビデオを駆使したビジュアル戦略だった。  しかし…カリスマ・ZENNがふと気づいた時、傘下のバンドが皆同じような、理想的な展開ができていたわけではなかった。  それどころか一番若いバンドが片鱗をのぞかせていただけ…  その名は「MOON」。ルーツはパンクのようだが、 聴かせるボーカルのせいか、曲はさわやかでメロディアス過ぎたかもしれない。 しかし、華麗な黒のステージ衣装のメンバーの、 ライヴのパワフルさで見せる華はROSEによく似ており、多くのファンを魅了していた。  そして、ROSEではなくMOONの後続者―曲は非常に繊細なサウンドで、 「黒のドレス」と女性とも見紛うメーク、色とりどりの長髪、 そんなビジュアルの様式のバンド―は帝国とは関係なく、日本中に続々と現れたのだった。  しかし、誰も元祖のMOONにはかなわなかった。  まず、メンバー五人全員がルックスに恵まれている点からして他のバンドには太刀打ちできなかった。  中でも、リードギターのマリアこと松岡優輔の、どんな美女もかなわないほどのゴージャスな美貌とそれから発散されるパワーのスケールは群を抜いていた。  エキゾティックな顔立ちと一七八センチの細身の体には一分の隙もなく、 微笑みながらも眼だけは挑発している自信にあふれた彼の表情は、 徐々に日本のロック界にMOONの名を刻み込んでいった。  マリア。  それはZENNに与えられたステージ・ネームだった。 

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