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第1章 ZENN 1
ネオンの光が降りそそぐ。
ビルの林の闇は淡く彩られていく。
耳に飛び込んでくるのは雑踏の喧騒ばかりなのに、この街が、さっき後にしてきたライヴハウスより刺激的に思えるのはどうしてなのだろう。
答えを求めて、マリアは空を仰ぎ見た。
「マリア、早く! 」
呼ばれるなり、サングラスのZENNに手を引っ張られ、彼の後ろを走り出さなくてはならなくなった。
―今の、ROSEのZENNじゃない?
背後で、囁きが聞こえたような気がした。
金髪の、筋骨たくましい、ボディーガード専門のローディーにガードされながら二人が吸い込まれていったのは、ビルの地下にあるメンバー制のクラブ「レプリカント」だった。
黒い長いドレスは、中がワイドパンツになっているとはいえ、階段を降りるにはなかなか不便だった。
さらにはZENNのお供をしているというのも畏れおおく、マリアらしくもなく二度ほど裾を踏んでは、前を歩くZENNのパープルのスーツの肩にしがみつく破目になった。
おまけに彼の長いブロンドも引っ張ってしまった。
マリアがひたすら謝ると、
「まったく君は…」
しかしZENNは口ほどにも怒ってはいないようだった。
「よくこれでステージ中を走りまわれるもんだ。」
宇宙空母の内部のようなメタリックなドアが開くとSFじみた近未来的な内装の店だった。BGMはさほどうるさくない。
「ZENN君、こっちこっち…」
ZENNの仕事仲間のヘア・メークアーティスト、半沢の誕生パーティーだということだった。
客は全員ロック関係ということで、またデコラティヴな半沢の作風もあってか、エナメルやサテンの、ロック的なドレスアップがほとんどだった。
それはマリアには好ましく見えた。
マリアが知っている先輩ミュージシャンの姿も見えた。が、気がつけばZENNはもちろん、自分も視線を浴びているようだった。
あっという間に人が寄ってきて、
「あれ、この人は? 彼女、じゃないよね?」
ZENNよりさらに四センチほど背が高く、ライヴのままのメークと衣装で来た、ワインレッドの長い髪をふわふわに立たせたマリアは確かに人目をひいていたのだ。
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