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第3話の3(←黒のドレス?のマリアの君)

 ファンがミュージシャンと同じ格好でライヴに押しかけることは、ロックではさほど珍しくないだろうが、コスチューム・プレイ―略してコスプレ―と称して、特に過激なコスチュームのアーティストの格好を完全にコピーすることはROSEから始まっていた。  天を突くかのように立てた金色や、血のような赤の長い髪。極彩色のサテン、エナメル、レース、そして、ギターの麗華だけは印度更紗という派手な衣装。特にブルーやパープルのシャドウが強烈に映えるメーク。  派手で何が悪い。美しくて何が悪い。  そう言わんばかりのROSEのビジュアルは確かに衝撃的だった。聞かせられれば曲には自信がある。そのためは自分達のことを知らない人達の目をひく必要がある。だからビジュアルを刺激的にする…そんなROSEの「挑戦」は既成のロック業界には大いに叩かれた。  しかし、ROSEは大衆に熱狂的に支持されていった。サウンドが新鮮なバンドが、ルックスまでもいいとすれば当然の結果だった。  CDのセールスは伸び続け、ライヴの会場の規模は巨大化していき…気がつけば客席はコスプレでいっぱいになっていた。  その頃になるとZENNはライヴでもタイトなドレス風のレースの衣装で、バラードの時に得意のピアノも披露するようになった。それは、パンクの流れをくむメジャー志向の日本のバンドらしい「何でもあり」であったが、彼の「万能」な姿としてとらえたファン達はメンバーの中でも彼を特に崇拝するようになった。彼がビデオで着たのと同じ、赤・白・青のドレスに身を包んだコスプレ達は、彼との同一感と、世間の常識を逆撫でするようなエキセントリックな自分達の姿に酔いしれていた。 「確かにこの衣装はピアノ向けだよな。これじゃドラム、叩けねーもん。」   ミーティングの最中、パラパラと音楽雑誌をめくっていたタカネがふとつぶやいた。  それはこの「町」のライヴハウスばかりではなく、ようやく都内でもちょっとは知られたライヴハウスでワンマンができるようになった頃、マリアがまだYOUというステージネームだった頃だ。 「白のレースのドレスか…ZENNさんでなきゃ着れないな。ああいう、ちょっと中性的な感じの人…」 YOUの眉がつりあがったのを見て、CUEは語尾を濁した。YOUは昔から「女の子のように可愛い」の類いにつながる言われ方を何より嫌がっていたのである。人にも言うな、という合図だ。あわててタカネが話をそらす。 「今度お前もバイオリンとか…ZENNさんの向こうを張ってやってみるか。」 レコーディングくらいならいいかもね、と言いかけたところ、シヴァが口を開いた。 「YOU、まずそのドレスから俺達やってみようか。」 シヴァが左きき用のギターなので、ネックの位置が左右対称になるのが二人の自慢で、それを目立たせるために二人は似たニュアンスの衣装を着るようにしているのだった。  一瞬YOUは黙った。抵抗があった。  しかし…今の、ポジティヴ・パンク風の黒のひらひらした衣装では、先輩バンド達との違いがアピールできていないのは事実だった。黒の衣装で他と差をつけるとすれば、シヴァの言う通り「ドレス」にするしか、性別を越えた格好にするしかないのかもしれなかった。とにかく客席の関心をひきさえすれば、曲で引き込める自信はあったから… 「俺達、ROSEとは音楽性も違うし、アマチュアでそこまでやる奴は他にいないぞ、ってウケると思うんだ。」

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