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第3話の4(←<黒服の>マリアの君誕生!)

 結局、シヴァとYOUは黒のドレス、というか、ロングスカートに見えるワイドパンツをはくことにした。CUEの知り合いのデザイナーの卵に縫ってもらったのである。コーディネートのために二着ずつ、それも大至急でと頼んだので、高い生地代の他に謝礼も払わないわけにいかず、二人はまたデパートの配送センターでバイトをする破目になった。  が、悲しいフリーターも、ひとたびステージに上がれば、客席が…息をのんだ。  YOUは何かがふっきれた気がした。  もう何も怖くない。俺達は俺達でしかないんだから。  しかし、いつものようにモニターに片足をかけて客を煽れば、返ってくる歓声が、いや会場にみなぎる空気はいつもよりテンションが高いように感じられる。それは、実は自分達のテンションの高さが伝わったものなのか、よくわからない。だが、みんなはMOONの気合いを認めてくれたようだった。  MOONの客は確実に増えていった。それでメンバーが気づいたのは、ライヴハウスの客達も新しいインパクト、そしてそれを与えてくれるバンドを求めていたということである。それも「私だけしか知らない」「これから伸びそうな」バンドを…これまでのロックを変えたいバンドと、その瞬間に立ち会いたい客が、小さなライヴハウスからではあったが、抱き合い、その空気をもっと広く伝えて行こうとしているのだとメンバーは確信した。   それから間もなくだった。ホームグラウンドの客席に、明らかにYOUのコスプレと思われる女の子が、たった一人ではあったが出現したのである。それも客席みんなが「似ている」と認めざるを得ないほど、雰囲気がYOUに似ている子だった。嬉しくなったYOUはその子の勇気をたたえるためにも、ステージからその子を挑発した。彼女の方もそれですっかり舞い上がり、ガンガン踊っていた。  メンバー間でもこのことでもちきりだった。 「嬉しいね。」 「YOU、自分じゃよくわからないかもしれないけど、YOUのミニチュア版て感じに傍からは見えたんだよ。」    それを見た他のファンも黙ってはいなかった。自分達もコスプレを始めたのである。スカートのギター組だけでなく、他の三人のコスプレも現れた。まだチームこそなかったが、都心の老舗のホールのイベントにMOONが初めて出た時も、彼女達は来てくれた。 (何だろう、みんな似たような格好で…)  彼女達を見る目は大部分が冷ややかだったが、MOONの出番になるとそこだけ賑やかなことから彼女達がコスプレとわかり、好意的に見てくれた他のバンドの客もいた。だが、 「コスプレなんて、許されるのはROSEだけだよ。」  その日の対バンの中で一番名前が売れているバンドに陰口を叩かれていた。すると、同じように連中にうんざりしていた他の対バンが教えてくれた。 「前回にここでやった時、別のバンドがインディー持ってるメジャーから声かけられたんだって。で、何で自分達じゃなかったんだ、ってイライラしてるんだよ。」 「ふうん。」 何気ないふうを装ってしまうほど、YOUの内心には焦りがあった。  体調のせいかその日の自分の演奏はぱっとせず、次のホームグラウンドでのライヴも納得のいくものではなかったYOUは打ち上げでも自己嫌悪で押し黙ったままだった。バンドの方もうまく行かないなんて…誰にも話せはしなかったが、相変わらずファンではない女の子と遊んではいたが、その頃のYOUは、苦しい…恋もしていた。

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