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第5章の1←ファンの波が嬉しいマリアの君

 ステージの上の五人と客席の熱気が、高い天井までの空間にまで渦巻いている。  ここはライヴハウスではなく、千三〇〇席はあろうというホール。  客席に傾斜がついていて、後ろからでもステージが見やすいホール。  見渡す限り、黒い服のファンの波だった。千人以上の観客が全員、自分達を求めて両手を広げているのである。  他のバンドと一緒のイベントで、もっとキャパシティーの大きい会場に立ったことはある。しかしあの時は、ファンの相手だけでなく、自分達を知らない客を引っ張り込むのにも神経を使わなければならなかった。  それが目の前の観客は、すべて、自分達をひたむきに愛してくれているのである。  ツアーのファイナルの東京だから、メジャーデビューの準備が進むほどの上り調子だから… そんな理屈などどうでもよく、ただ胸が一杯になり、涙があふれそうになる眺めだった。 そんな中で、マリアはライヴで初めて、「MOON」という曲でバイオリンを披露した。 ファンの驚きと喜びがすぐにマリアに返ってきた。  この日のライヴは、客の数の話だけではなく、バンドの何もかもをステップアップさせる事件になった。

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