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第7話 デート
入場して、真っ直ぐジェットコースターの入場列へと進む。
「すっごーい!高い高い!ね、秀磨!すごいね!」
兄さんが満面に笑みを浮かべてこちらを見る。
「うん。そうだね。」
ジェットコースターの頂上を指し、兄さんは興奮を抑えずに話す。本来、兄さんくらいの年ならば、はしゃぎはしてもここまで喜ぶことではない。つまり、これくらいで喜べるほど、あの家の中は辛いということだ。・・・僕がついていながら、兄さんに負担をかけるなんて。
「でも、もうすぐ終わるからね。」
ぼそり。誰にも向けずに、ひとり呟く。
「秀磨、どうかした?」
上の空になっていた僕を、兄さんは心配そうに覗き込んでいる。
「何でもない!行こう。せっかく久しぶりに来たんだから。楽しまなきゃ。」
そう言って、兄さんの手を引いてジェットコースターへと乗り込んだ。
「「ひっきゃあああああああああああああああ!」」
甲高い悲鳴があがる。今はちょうどジェットコースターの下り坂。一番の山場だ。隣を見れば、兄さんもが楽しそうに叫んでいる。ずっと見つめ続けているとこちらの視線に気づいて、ふにゃりと笑う。それに返すように、僕も笑う。
(ああ、こんな時間がずっと続けばいいのに。)
そう、ずっと続けばいい。こんな穏やかな時間が。そのために、僕は、
「ずっと、一緒にいようね。兄さん。」
僕は、準備を進めてきたんだから。
「あー楽しかった。ね、秀磨、また来ようね。一緒に。」
ジェットコースターの滑走が終わり、兄さんと次のアトラクションへと向かう。
「うん。何度でも。ずっと一緒に、来よう。毎週、毎日だって!」
そう、何度だって来よう。だってね兄さん、今日、
「何度だって、連れてきてあげる。」
あの男は、いなくなるんだ。
「次は何乗る?」
「ほかの絶叫系!」
「おっけー。じゃ、行こう。」
「うん!」
ふたりぼっちの少年の片割れは、殺人という護身術をみつけた。
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