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第8話 赤
「楽しかったね!秀磨。」
「そうだね。」
一通り遊びつくしたころ。気づけば日は傾き、空が真っ赤に染まっていた。
「・・・もう、夕方だね。」
兄さんが暗い声で話す。
「・・・そうだね。もう戻らなくちゃ。」
もうすぐ、あの男が帰ってくるだろう。兄さんを閉じ込めるあの檻に。
「また、あの家に帰らなくちゃいけないのかな?」
兄さんが瞳を潤ませて、こちらを見上げる。
「・・・大丈夫!今日は帰るのホテルだから。」
そんな兄さんを安心させるために、笑顔を作る。歓喜の笑みを。
「今日はあの男からきっちり許可貰ってるからね。一泊二日の旅行に行ってることになってる。」
「・・・そうなの?」
まだ不安そうに、恐る恐る訊いてくる。そんな兄さんの仕草がまたとてつもなく可愛い。
「そうだよ。」
嘘。本当は許可なんて取ってない。でも、いいんだ。どうせ今日、いなくなるんだから。
「小さい頃に一回泊まったことあったよね。今日は奮発してスイートルーム取ったからね。」
これは本当。兄さんを下手なところに泊めさせるわけがない。
「すいーとるーむ?」
兄さんは聞き覚えのない単語に首を傾げている。
「一番高級で安全なホテルの部屋のことだよ。」
そう、僕の息がかかった人間を複数潜らせてある。最低限兄さんの絶対安全を保障できるくらいには。
「一番高級で安全なほてるの部屋・・・」
兄さんが僕の言葉を復唱する。
「そう。だから、今日はそこに泊まって、帰るのは明日の昼。だから、今日の心配は何もしなくていい。勿論、ご飯もお風呂もついてるよ。」
兄さんの触り心地いい頭を撫でる。
「安心して、いいんだよ。」
もう誰にも触らせない。傷付けさせない。兄さんは、僕のものだ。
「・・・そっか。そっか!」
兄さんは潤んだ瞳で嬉しそうに微笑む。ああ、やっぱり、兄さんは可愛い。
それに、こっちの顔のほうが似合う。泣いている表情 なんかではなく、笑っている表情が。
「さ、兄さん、行こうか。ホテルに行こう。すぐそこだから。」
兄さんの手を引く。
「うん!」
兄さんは僕の手をきゅっと握り返してくれた。
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