8 / 9

第8話 赤

「楽しかったね!秀磨。」 「そうだね。」  一通り遊びつくしたころ。気づけば日は傾き、空が真っ赤に染まっていた。 「・・・もう、夕方だね。」  兄さんが暗い声で話す。 「・・・そうだね。もう戻らなくちゃ。」  もうすぐ、あの男が帰ってくるだろう。兄さんを閉じ込めるあの檻に。 「また、あの家に帰らなくちゃいけないのかな?」  兄さんが瞳を潤ませて、こちらを見上げる。 「・・・大丈夫!今日は帰るのホテルだから。」  そんな兄さんを安心させるために、笑顔を作る。歓喜の笑みを。 「今日はあの男からきっちり許可貰ってるからね。一泊二日の旅行に行ってることになってる。」 「・・・そうなの?」  まだ不安そうに、恐る恐る訊いてくる。そんな兄さんの仕草がまたとてつもなく可愛い。 「そうだよ。」  嘘。本当は許可なんて取ってない。でも、いいんだ。どうせ今日、いなくなるんだから。 「小さい頃に一回泊まったことあったよね。今日は奮発してスイートルーム取ったからね。」  これは本当。兄さんを下手なところに泊めさせるわけがない。 「すいーとるーむ?」  兄さんは聞き覚えのない単語に首を傾げている。 「一番高級で安全なホテルの部屋のことだよ。」  そう、僕の息がかかった人間を複数潜らせてある。最低限兄さんの絶対安全を保障できるくらいには。 「一番高級で安全なほてるの部屋・・・」  兄さんが僕の言葉を復唱する。 「そう。だから、今日はそこに泊まって、帰るのは明日の昼。だから、今日の心配は何もしなくていい。勿論、ご飯もお風呂もついてるよ。」  兄さんの触り心地いい頭を撫でる。 「安心して、いいんだよ。」  もう誰にも触らせない。傷付けさせない。兄さんは、僕のものだ。 「・・・そっか。そっか!」  兄さんは潤んだ瞳で嬉しそうに微笑む。ああ、やっぱり、兄さんは可愛い。  それに、こっちの顔のほうが似合う。泣いている表情(かお)なんかではなく、笑っている表情が。 「さ、兄さん、行こうか。ホテルに行こう。すぐそこだから。」  兄さんの手を引く。 「うん!」  兄さんは僕の手をきゅっと握り返してくれた。

ともだちにシェアしよう!