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 する、と下着の中に凪早の手が入り込み、手際よく脱がされてしまう。ぷる、と自身の欲が勢いよく飛び出したのが、自分でも分かる。  なんだかいたたまれなくなってしまって、オレは顔を思わず手で覆った。 「え~! ちょっと、なんで隠すの?」 「恥ずかしいだろ……」 「変に隠すと化粧崩れるよ? いいの?」  化粧に対してそれなりにこだわりのあるオレにそう言えば隠す手を外すと思ったのだろう。しかし、それはそれで、少しむっとくる。 「……なんだよ、化粧が崩れたオレは嫌かよ」  ぽつり、とそんな言葉を思わず言ってしまった。  てっきり、「そんなことないよ~」と、どこかご機嫌を取るような軽い言葉が凪早から帰ってくると思っていたのに、何の返事もない。  間ができて、変な沈黙が流れた。  数秒後、固まっていた凪早が立ち上がる。何か間違えたのか、と凪早の履いていたスカートの裾をつかんだ。 「な、なぎさ……ごめ、ごめん、オレ、あの……っ、ぶ!」  凪早は床に転がっていたクレンジングシートでオレの顔面を、やや乱暴にぬぐった。ぐりぐりと、普段の凪早では考えられないほどの適当さだ。 「悪い、手、震えてうまくできない……。でも、これで化粧落とせたから」  滅多に聞けない、凪早の低い声。凪早の地声自体が、そんなに低くなくて、いつもは意図して高めの声を出しているらしいので、この声は本当に、たまにしか聞けない。  真剣で、集中してるときに、運がいいと聞けるその低い声に、ぞくぞくと快感が背中を走る。  ぽい、と使用済みのクレンジングシートとパックを床に投げ捨てた凪早は、再びオレに覆いかぶさると、オレの目じりにキスをしてきた。 「化粧してようがしてまいが、冬次ならなんでもいいに決まってるでしょ」 「で、も……多少は女に近いほうが、凪早だ、って……」  自分に似合う恰好を好きなようにしたいから女装をしているだけで恋愛対象が男なわけじゃない、と昔の凪早が言っていたことを思い出し、思わず言ってしまった言葉は、絶対にアウトだったと分かる。もう、口にしてしまったので今更だが。  すっと細められた目は、獲物を見下す捕食者のそれだった。 「そんなに女になりたいなら、僕が冬次をメスにしてやるよ」 「メスって……確かにオレはその、な、凪早に、だ、だ、抱かれるけど、その、それでも男だから!」  耳元でささやかれるとぞわぞわしてしまう。気恥ずかしさを隠すように、わざと大声を出してしまうのは、オレのささやかな抵抗だ。 「そう? 冬次は女装だけじゃなくて、メスになる才能もあると思うけど」 「……そこまで言うならやってみてよ」 「上等」  口紅が落ちることも気にせずに、ぺろりと舌なめずりをする凪早を見て、オレは言葉の選択を完全に間違えたことを悟った。 □■□ □■□ 「あっ、あっ……なぎ、ぁ、むりっ、う、ぅ――――!」  びゅ、とオレの腹の上に、自らの精液がかかる。薄く粘度のないそれは、勢いをなくし、飛ぶというより垂れたといった方が正しいだろう。  もう、何度目かわからない。たいして出ないのに、執拗に射精を促されるのは、逆につらいものがある。  オレの中に入った凪早の中指と薬指が、ちゅこちゅこと音を立てながら、執拗に弱いところを責め立てる。  前立腺だよ、と凪早が言ったそこをぐりぐりと押されると、押し出されるようにして、薄い精液がせりあがってくるような気がした。  呼吸すらままならず、声を上げながら出ないと、息を吐いたり吸ったり、できないような状況だ。しゃべる余裕なんてない。 「やっぱり、冬次はオンナノコになれるよ。初めてで、前をいじらないで気持ちよくなれるんだもん。ここで気持ちよくなって、女の子だって証明するように、僕の指、離さないでしょう?」 「わか、わかん、な、ひぃっ! なぎ、こわい、こわいよ」  オレをいじるのとは反対側、凪早の右腕にオレの手の甲を擦り付けると、凪早の動きがぴたりと止まる。安心させようとしたのか、凪早はオレに軽いキスをしてくれるが、凪早のくれる刺激はどれも快感となってしまう。オレの、変に高い声が漏れる。 「ごめんね、ちょっといじめすぎたかな」  ずるり、と凪早の指が抜ける感覚。やっと終わる、と思ったが、すり、と熱いものが股に擦り付けられた。 「なぎ、むり、だよぉ……っ」 「ちょっとやりすぎたからね、いれないからだいじょーぶ。でも、ちょっとだけ、貸してね」  凪早はそういうと、オレの両太ももを閉じ、ぴったりとくっついた内ももに、彼の欲を()れてきた。ずり、と凪早のモノが前後するたび、オレのに当たって、腰が熱くなる。  ――なのに。 「ン、ん……っ」  少し、物足りないと思ってしまうのは、なぜだろう。本当に、女になってしまったみたいだ。先ほどまで、執拗に後ろを攻められていたからだろうか。前への刺激も気持ちいいのだが、どこか不十分だ、と腹の底が切なくなる。 「な、ぎさ……っ」 「とーじ、ちょっとだけ、我慢だよ」 「ち、ちが、ぁっ……ちが、う! 入れて、奥、ほし……っ」  ぴた、と凪早の動きが止まる。あんなにも暴力的な快楽がつらかったのに、またすぐほしくなってしまうなんて、オレは被虐趣味でもあるのだろうか。   「なぎ、さが……オレを女にするならっ最後まで責任、取れよ……っ」  女装は好きだけど、女になりたいわけじゃない。  そう思っていたはずなのに。  捕食者の目をして、うっすらと笑う凪早を見て、オレは彼の『オンナ』になりたいと、心から思ってしまうのだった。

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