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第9話(2) やっぱりアホな猿渡

「よォ! 今日も絶賛青春中じゃねーか!」 能天気な声と共に、ズカズカ入って来たのは振り返って見なくても分かる、アホの猿渡。 「ほらよ。差し入れだ! これ、好きだろォ」 「またこれ……好きじゃないってば」 彼の手には2本のペットボトル。そこに独特なセンスのパッケージ『吉備団子ジュース スポーツドリンク風味』 「こっちは栄養ドリンク風味だぜ」 「なんでこのメーカーはこんなに攻めの姿勢なんだよ」 これすごく不味いって何回も言ってるだろうに。 ハッ、まさか。嫌がら……。 「でもこれ憲一が好きなんだぜ」 「……おぅ」 「確か『初恋の味』で『初間接キッスの……ゥボァッ!」 「……余計なこと言うんじゃねぇぜ。猿渡」 「ウギャァァッ!!」 犬養君にエルボー食らって悶絶する猿渡は放って置くことにした。 「あらあらァ? アホでアル中で女好きの最低クズ野郎の猿渡ィ」 「ゲッ、姫華……」 高いヒールの音を高らかに、スラリと格好の良い長身が綺麗な笑みを浮かべて歩み寄ってくる。 「またなんかしたのかい? 猿渡」 「べ、べべべべっ、別になーんにもしてねーよ!? うん、オレはそりゃもう清く正しい男だしさァ」 ……うん。なんかしたんだな。目が泳ぎまくってるし、アホは嘘つけないって分かるもんだね。 「ねぇねぇねぇっ、太郎ちゃん聞いてよ! このバカってばウチの店の女の子にまた手出してさ。怒って辞めちゃったのよ! このクソ忙しい時期にぃぃっ」 「猿渡、君って奴は……」 呆れてモノも言えない。こうやって何度も女や酒代のトラブルで雉野さんに散々怒られているのに、だ。 「ちげーよォ、あれはあっちが雰囲気出してきて成り行きで……」 「それでお尻触って『ダチの尻の方がいい形してる』とか言って怒らせたんでしょうがァァッ! この脳みそ精子野郎がッ!」 ……うわぁ最低だ。僕が女の子でも絶対傷付くし、殴り倒すね。病院送りだ。 「アハハハ……つい口が滑っちまって。太郎の方が良い尻してるぜ、ほら」 「だから触るな、ってえぇぇ!?」 もうなんなんだよ。このバカ猿渡。脳みそサル以下だろう。 ……犬養君も深く頷くんじゃない。なんで君がドヤ顔なんだよ。 「あと猿渡ィ? ツケがまた溜まってきたわよ。今月中には払ってよね! そうじゃないと」 「そ、そうじゃないと……?」 恐る恐るといった具合に声をひそめた猿渡に、彼女がニヤリと笑う。 「……太郎ちゃんに女装でウチの店に立ってもらうから」 「ちょっ、なんで僕!?」 全く関係ないじゃないか。 思わず抗議すると『そっちの方が効率的に取り立てられるから』と悪びれもない返答が返ってきて脱力……。 「ギャハハハハッ、良いじゃねーか! きっと似合うぜェ。な、やっぱりミニだよなァ?」 「……俺は膝丈以上しか許さん」 「憲一。それは少し勿体ないわよ。太郎ちゃん足もキレイだから……スリット入りは?」 「……む」 「ウヒョーッ、姫華ってば大胆ンン! でも、オレもそれ賛成!」 目の前で自分の女装に関してアレコレ話弾み出すこの3バカトリオ……僕は腹に力を入れて、思い切り息を吸い込む。 そして思い切り。 「3人ともいい加減にしてっ ……と、猿渡は全力で反省して生涯地面に埋まってろぉぉぉッ!!」 「……ブゴォォォッ!!」 猿渡の顔面に渾身の裏拳を叩き込む。 ―――目の前の胎児がぽこり、と泡を吐き出すのを横目で見ながら。

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