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第八幕

 追われに追われて国主は山奥に逃げ延びた。朽ちかけた山小屋に身を潜め、僅かな身内と共に隠遁していた。近くに村はあったが、密告を恐れて寄り付けずにいた。食べるものも少なく、着の身着のままだった為、国主はこれまでになく飢えていた。  ある日どこからともなく初老の夫婦が現れ、山小屋の戸を叩いた。旅の途中で偶然通り掛かったという夫婦は、水を一杯要求してきた。事を荒立てたくない国主らは、夫婦をあしらうため瓶の水を適当に振る舞う。夫婦は水のお礼がしたいと背負っていた籠から果実を一つ取り出すと、国主の手に直に手渡した。それは何とも見事に黄金色に輝いていた。甘い芳香が小屋の中に広がる。飢餓に苦しんでいた国主らはたった一つの実を争い奪うようにして口にした。夫婦はいつの間にか姿を消していた。  翌朝、目が覚めると小屋の中が騒がしくなる。皆それぞれ窶れていたはずの体から一転、若さを取り戻し見違えていたのだ。余りの出来事に驚愕し合っていると、小屋の扉が突如強引に開き、死んだ目をした百姓達が大勢こちらを睨んでいた。 「また禍が起きる!」 「神山に手を出したらまた村が焼ける!」 「掟が破られた!」  国主らをぐるりと取囲むほどの人数が口々に騒ぎ立て始めた。どこからともなくいしつぶてが飛んでくる。一つからあっという間に何十個も飛び交う。国主らはなんの抵抗も出来ぬまま、戦によって焼け出され苦しみ追い詰められた百姓達の怨讐の餌食となった。国主は原型を留めぬほどに痛めつけられた後、小屋ごと火を点けられた。かの村の村人たちは今度は災いを退けたと騒がしく歓声を上げる。少し離れた山木の影から、あの夫婦がその様子をじっと見届けていた。  御簾の奥で若い国主は疼いていた。その背後には国主のあるじがいる。今日もあるじの言いつけに全て従った。夜には褒美が待っている。そう思うとつい身震いして堪らなくなってくる。 「真の鬼とは、一体どのようなものなのだろうな…」  桃太郎は一人呟いて、にやりと嗤っていた。 鬼ヶ島 終幕

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