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第1話

この世界には男と女というふたつの性別の他にα(アルファ)β(ベータ)Ω(オメガ)という三種類の二次性が存在している。 男女というふたつの性別でさえ色々と面倒くさい事が多い世の中なのに更に細かく細分化されたされたこの三種の性を一般的にはバース性と呼ぶ。 『BIRTH(バース)』その意味は誕生、出産、血統、起源という感じなのだけど、その字の通りバース性は出産や血統を現す性別だよ。 αは優秀だが繁殖能力が低く、Ωは特別な力は持っていないけど繁殖力が高いのが特徴で、αはその優秀な血統を残す為にΩと結ばれる事が多いんだ。 αは生まれつき賢く優秀で、その性別が判明した瞬間からもう未来は開けている、そしてそんなαに愛される資格を持って生まれたΩもまた、ただ無条件に愛される存在として幸せな未来が約束されている。 僕の名前は榊原樹(さかきばらいつき)、ぴちぴちの高校一年生。そして、無条件に愛される性と言われるΩ性を持って生まれた僕は最強に可愛い! はず! なのに僕は今、目の前でいちゃつくカップルをぎりりと凝視している。 「一兄、四季兄、いちゃつくなら部屋でやって!」 「お、樹いたのか?」 「いたよ! 何ならずっとここにいたから! 後から来ていちゃつきだしたのそっち!」 「そうかそうか」と腕の中に満面の笑みで恋人を抱き込んでいるのが僕の一番上の兄の榊原一縷(さかきばらいちる)、そしてそんな兄ちゃんの腕の中で苦笑しているのが4番目の兄の榊原四季(さかきばらしき)。僕達は実の兄弟だけど、最近この長兄と四男が付き合いだして僕の機嫌はすこぶる悪い。 別に兄弟で付き合っている事に文句を付けたい訳じゃない、何故なら僕の初恋は長兄の腕の中で苦笑している四男の四季兄だからだ。 一番年の近い四季兄は僕にとっては一番仲の良い兄弟で特別だった、なのに僕がちょっと目を離していた隙に2人は相思相愛のラブラブカップルに……ここ何年か微妙にぎくしゃくしてたくせに、どういう事!? その辺の話は腹立たしいから割愛、割愛! 僕は今、とても機嫌が悪いんだから! 「樹、そういえば、あれから学校どんな感じだ? いじめられたりしてないか?」 「別に普通。皆、僕がΩだって知ってるもん、いつも通りだよ」 Ωという性別には少し厄介な特徴がある、それがいわゆる発情期(ヒート)というやつで、それは三か月に一度女性の生理と同じようにやってくる。発情期中のΩは頭の中が生殖に支配され、溢れ出るフェロモンでαを誘惑する。それは本人である僕にも制御できない本能的な生理現象で誰にも止められない。最近は薬である程度抑制が出来るようになったとはいえ、完全に消せる訳ではないこの生理現象がΩにとっては非常に苦痛だったりする。 この発情期の間、Ωは生殖の事しか考えられない。だから好きでもない相手でも無条件に誘惑してしまうし、結果うっかり性交、うっかり妊娠なんて事もあったりして本当に厄介なんだ。 「Ωだからって何か言われたり……」 「ないない、大丈夫だって! まぁ、ひとつだけ難を言えばあの人くらいで」 「あいつ、まだお前にちょっかいかけてきてるのか?」 苦々し気に一兄がちっと舌打ちを打つ。『あいつ』それは少し前、学校でヒートを起こした僕を襲った一学年上のαの特待生でサッカー部のエース、名前を篠木雄也(しのきゆうや)という。 長兄は僕を襲った篠木先輩を退学に追い込みたかったみたいなんだけど、うちの学校ってサッカーに関しては強豪校って言われててさ、篠木先輩はそれこそ全国的に名が売れている有名人だったんだよね。学校側としてもそんな不祥事で退学になんてさせたくなくて、自分の体調をきっちり管理してなかった僕も悪いって事で一週間の謹慎で処分は終わった。 まぁね、それならそれで仕方ないって僕も納得してるよ、僕は怪我もしてないし、レイプされた訳でもないしね。だけど、そんな事があった相手だから、極力近寄りたくないのに、何故か篠木先輩は謹慎明けから僕にぐいぐい付き纏ってくるんだよ、ホント迷惑! 『俺には……お前だけだ』なんてさ、どの口が? って思うよね。あんたは僕のフェロモンに惑わされただけで僕の何を知ってるって言うのかな? 確かに僕は可愛いよ、そこは否定しないけどさ、僕、一目惚れとかそういうの信用しないようにしてるんだよね、そんなの一々相手にしてたらキリがないから! だから僕は彼の事を散々に拒否してるし、冷たく扱ってるんだけど『そういうとこ、好き』って、ホントもう意味が分からないよ! あの人マゾなのかな? 僕、そういうの理解できないから勘弁して欲しいんだけど! 「樹、あんまり目に余るようなら、ちゃんと先生に相談するんだぞ」 「何かあったら俺にすぐ連絡入れるのも忘れるなよ」 一兄と四季兄が口を揃えて僕の心配をしてくれる。さっきまでいちゃついてたくせに、そういうとこ2人とも『お兄ちゃん』で憎みきれないんだよなぁ……僕は四季兄が好きだったけど、一兄は二番目に好きだった、そんな2人がくっいたものだから僕の心のやり場がなくて本当に困る。嫌いになれたらいいのに、僕はやっぱり2人が好きなんだ。 僕は「分かった」と頷いて「だけど、いちゃつくのは部屋でして!」と釘を刺すと2人は笑って一兄の部屋へ行ってしまった。 四季兄の部屋は僕と同室のはずなのに最近むやみに広くて寂しいよ。

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