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第6話

「樹!」 今日も今日とて篠木先輩は僕の元へとやって来る。 「先輩部活は良いんですか?」 「あぁ、もうきっちり話は付けてきた」 「部活辞めたら退学なんでしょう?」 「ん? 確かに俺はサッカーの特待生としてこの学校に入学したけど、成績だって悪い訳じゃない、特別に試験を受けさせて貰える事になってな、それに合格すれば良いと担任が……」 「なんで!?」 満面の笑みでそんな報告をしてくる篠木先輩、なんでそんな普通に笑ってるの? サッカーは自分の人生だって言った癖に、それをそんなに簡単に捨てちゃうの? 「樹は俺が学校を辞めた方が良かったか?」 急にしょんぼりと眉を下げる篠木先輩、だけど僕はそんな事一言も言ってない! 「僕は一度目指した目標を簡単に捨ててしまう人は嫌いです! そうやって何もかも放り出してそれで先輩は何がしたいの!? 一時の感情の盛り上がりで周りを振り回して何が楽しいの!? そんな事をする人、僕は信用できないよ! 他に好きな人が出来たらきっと先輩は今回のサッカーみたいに簡単に僕を捨てるんだろ? 僕はそんな人とは付き合えない!」 「樹……」 「サッカーしてる先輩、すごく楽しそうで、か……恰好良かったよっ! でも、今の先輩はすごく格好悪い。僕はそんな人の番になるなんて真っ平だ!」 あぁぁぁ……格好いいとか言っちゃった……でも、小さな画面の向こう側でキラキラしてる先輩は本当に格好良かったんだよ。出会ってからこっち、乱暴だったり、かと思えば妙に低姿勢で僕に媚びへつらうみたいな態度の先輩しか見てこなかったから、こんな人大嫌いだって思ってたけど、試合中の先輩だけは何度見ても目が離せないくらいに格好良かったんだもん! 「樹……俺はお前がいればそれで……」 「僕、そういうのも嫌い! 恋愛で自我を失くすとか馬鹿なんじゃないの!?」 「そんな……だったら俺はどうすれば……」 「やるべき事はちゃんとやる! 全国大会、去年も良い所まで行ったんでしょう? だったら今年は優勝しなよ、そしたら付き合ってあげてもいいよ?」 しょんぼり項垂れていた篠木先輩の顔がぱっと上がる 「全国大会優勝したら、番になってくれるか!?」 「そこまでは言ってないよ! 高望みしすぎ。そもそも僕達まだ高校生なんだよ? 番になるとか早すぎる。それに未来の見えない番相手なんて僕は嫌だよ、もし番になるなら先輩がプロのサッカー選手になった時だ」 「俺、絶対にプロになる! 待っててくれ、樹!」 そう言うが早いか、叫ぶようにして篠木先輩は踵を返し駆けて行った。なんだろな、知ってたけど先輩猪突猛進過ぎなんじゃない? 僕は少し可笑しくて、くすくす笑ってしまう、 次の試合は僕もこの目で、生の先輩の雄姿を観に行ってみようかな?

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