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【5/100 ① 絶望が世界を覆い尽くしても】
◆小説用お題ったー。様より
~お題【絶望が世界を覆い尽くしても】~
【キャラ紹介】
*箱根 雨竜
高校一年生。
見た目は不良、心は純情、されど口は悪いし頭も悪い。
登坂の落とし方を絶賛模索中。
*登坂 霧
高校一年生。
見た目は優等生、心はクール、されど素直でなんでも直球。
箱根の扱い方がどんどんうまくなっている。
俺──登坂霧は高校の入学式に、初対面の男に告白された。
その内容が清々しいほどに最低だったのを、今でも痛烈に覚えている。
『交際を前提に性交してください!』
答えは勿論、ノーだ。
それなのに、見た目は不良で下心しかない同級生──箱根雨竜はと言うと、なぜか俺に付きまとい続けた。
そして驚くことに、俺たちに対する周りからの評価は【親友】らしい。ふむ、実に解せない。
そんなある日──と言うか、今日。
──箱根が突然、膝から崩れ落ちた。
「──絶望ッ!」
シンプルにウザいし、無視したい。……が、周りにはクラスメートたちもいる。このまま目の前で項垂れた親友もどきを放っておくことは、得策ではないのだ。
俺は箱根を見下ろしたまま、短く声を発する。
「──立て」
「氷より冷たい男だなッ!」
そうかそうか。ふふっ、褒められて悪い気はしないな。
項垂れたまま床を見つめる箱根に視線は向けず、俺は作業を進めながら声をかけ続ける。
「授業始まるぞ」
「だからなんだッ!」
学生にとっての最重要項目を一蹴されてしまった。解せない。
床に膝と手を付き、箱根は体を小刻みに震わせている。
「オレは、今日という日をメチャクチャ楽しみにしてたんだ……ッ! それなのに、なんで……なんでだよッ!」
強い語気と、不良っぽい見た目。周りのクラスメートは怯えているのか、俺たちから距離を取っている。
実際問題、箱根がなにに対してこんなに怒って──落ち込んでいるのかが、分からない。……が、コイツがこんなに取り乱すのは十中八九、俺が原因なのだろう。ならば、俺がどうにかするしかないのだ。
場所は、男子更衣室。次の授業は、体育。俺たちは今、制服からジャージに着替えているところだ。
俺がワイシャツを脱いだ途端、箱根は膝から崩れ落ち、叫び出した。
……ちなみに、俺はワイシャツの下にTシャツを着ていたのだが、悲壮に満ちた箱根との関連性が分からないので、これが原因ではないだろう。
「──いや、分かるだろッ!」
どうやら心を読まれたらしい。恐怖を通り越して嫌悪だ。
「クソッ! この際『嫌悪』発言はスルーだッ! オイッ、登坂ッ!」
やけにスタッカートを多用する奴だなとか思いつつ、俺はジャージに袖を通しながら、顔を上げている箱根を見下ろす。
「オレは今日ッ! お前の上半身を見るためだけに登校したんだぞッ!」
「へぇ」
「それなのにお前はッ! 世界を絶望で覆い尽くしたッ!」
俺の上半身を『世界』と形容し、Tシャツを『絶望』と形容するのは止めて頂きたい。
このまま放っておいてもいいかもしれないが、そろそろ体育館に向かわないと遅刻扱いになってしまう。箱根はどうでもいいが、俺はそれだと困る。
面倒ではあったが、それらしい言い分を探してみた。
「……今日の体育、バスケのはずだから……腹くらいなら、見えるんじゃないか」
いわゆる【腹チラ】というやつだな。
更衣室のロッカーに制服をしまい込んでから、後ろを振り返る。
──すると。
「なにやってんだよ、登坂。早く行くぞ」
さっきまで制服のままベソをかいていたはずの箱根が、ジャージに着替えて立っていた。軽くホラーである。
溜め息を吐きつつ、けれど体育館へ向かうため、俺は箱根の隣を並んで歩いた。
絶望が世界を覆い尽くしても、ちょっとの希望があれば……コイツはそれでいいらしい。
……まぁ、ズボンの中にシャツをインしているから、腹なんか見えないんだけど。
【5/100オマケSS:絶望が世界を覆い尽くしても】 了
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