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【何れ菖蒲か杜若 ① ノンストップ咀嚼タイム(前編)】

◆十一月十一日、あのお菓子の日にちなんで書いたお話です。 【キャラ紹介】 *厚賀(あつが)(みなと) ヤンデレ社会人。巡がいたらそれでいいから、巡にも自分だけでいてほしいタイプのヤンデレ。クールで素っ気無いが、巡への愛はどこまでも深く重い。 *我妻(がさい)(めぐる) ツンデレ男の娘大学生。自分の彼氏がヤンデレという属性なのを知らない。喜怒哀楽が分かり易いけれど、どうしても湊へ素直になれない。女装趣味はない。  ソファに座ってテレビを眺めること、気付けば二十分。オレ、我妻(がさい)(めぐる)はワケも分からず、延々と口を動かしていた。 『ポキ、ポキ、ポキ……』  部屋に響くのは、テレビの音と……そんな、小気味いい音。ポキポキっていう音の出どころは……一応、オレだ。  ――だけどオレは、状況がイマイチ飲み込めていない。  口の中に入った物を何とか飲み込み、オレを後ろから抱き締めている彼氏……厚賀(あつが)(みなと)さんを、オレは振り返った。 「あ、あの……湊さ――」 「我妻、口開けろ」 「うっ、あ、あー……んむっ」 「ちゃんと噛め」  再び鳴る、ポキポキ音。 『ポキ、ポキ、ポキ……』  …………分かんない!  一応、分からないなりに状況を振り返り、解析してみよう。  オレは大学、湊さんは会社から帰ってきて、一緒に晩ご飯を食べた。湊さんが作ってくれたシチューだ。美味しかった。ここまでは分かってる。  で、湊さんが洗い物をしている間……オレは手持ち無沙汰だったから、ソファに座ってテレビを見始めた。バラエティ番組だ。そこそこ面白い。ここまでも分かってる。  その後……洗い物を終えた湊さんが、会社に持っていく鞄の中から、お菓子の箱を取り出した。赤いパッケージの、細くて長いスティックタイプのプレッツェルにチョコをコーティングした、あのお菓子の箱だ。美味しくて、オレは好き。正直……ここからがちょっと微妙に分かんない。けど、とりあえず分かったということにして話を進めよう。  ソファに座ってるオレの後ろに無理矢理座って、オレを後ろからギュッと抱き締めた湊さんは、何も言わずにそのお菓子を指でつまんだ。  そして何の説明も無しに、オレはエンドレスでお菓子を食べさせられている。  ――今、ココ。  …………うん、ヤッパリ、分かんない!  オレは急いで口の中に残るお菓子を飲み込み、湊さんを振り返った。 「み、湊さ――」 「我妻、口」 「うっ、あ……じゃなくて!」  危うく口を開きかけたオレは、慌てて口を閉ざす。当然湊さんは不服そうだけど、そこを気にしている場合じゃない! 「何でオレ、さっきからお菓子食べてるんですか!」 「好きだろう?」 「そ、それは、えっと……好き、ですけど……って! そうじゃないんです!」  不服そうな顔のまま、湊さんはお菓子を食べさせようと、オレの顎を掴む。  ――このままだと、またループに逆戻りだ……! 「理由! 理由が知りたいんです!」 「『理由』?」  眉間にシワを寄せていた湊さんが、怪訝そうな表情を浮かべる。 「今日は【コレ】の日なんだろう。お前はこういうイベント、好きだと思ったんだが」  【コレ】と言って、湊さんは赤いパッケージの箱を指で指した。

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