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【何れ菖蒲か杜若 ② ノンストップ咀嚼タイム(中編)】

◆十一月十一日、あのお菓子の日にちなんで書いたお話です。  今日は、十一月十一日……確かに、そのお菓子とか、スティックタイプのプレッツェル菓子の日だ。  言われたら、確かに納得。  ……そう、だけど。  …………だけど、だけどさぁ! 「先に説明してください!」  そんなの、言われないと分からない! 抗議のつもりで発した言葉を、湊さんは一蹴する。 「分かった。……我妻、口開けろ。最後の一本だ」 「微妙に伝わってない……!」  普段から過保護な湊さんなりに、オレを喜ばせようと思って用意してくれたんだろう。そこは、分かる。  でも、いきなり何の説明もなく淡々とお菓子を口に運ばれたオレの気持ちを察してほしい!  ――と言ったところで、湊さんは分かんないんだろうけど……。  半ば諦め、オレは湊さんの指示通り……口を開いた。 「あー……んむっ」 「ちゃんと噛めよ」  湊さんにお菓子を食べさせてもらうのは、正直……幸せ、かも。  ――でも、オレばっかり食べるのはイヤだ。 「…………? 我妻?」  湊さんが不思議そうに、咀嚼を止めたオレの顔を覗き込む。  ――これからしようとしていることを脳内でシミュレーションするだけで、顔が熱くなってくるのは……仕方ない、筈だ。  我妻は子供じみたことが好きだ。理解はできないが、把握はしている。  だからきっと、何とかの日というものも好きなんだろうと思って、今回はあえて乗っかってみた。ソースは職場。会社でやかましく騒いでいる後輩共も、たまには役に立つ。  そして、喜ぶかと思って我妻の口に菓子を運んでみると……小動物みたいに食べ続けるものだから、与え甲斐しかない。部屋から一歩も出さず、我妻の衣食住全てを管理したい俺としては、今日というこの日はある意味記念すべき日なのかもしれないと……そう、思いかけていた。  ――が、我妻の口が止まっている。  すると突然……何故か、俺を見上げたまま頬を赤らめた。 「「…………」」  見つめ合うこと、数秒。珍しく、我妻が目を逸らさない。  珍しいな……という感慨は、置いておこう。  我妻は菓子を咥えたまま、何故俺を見ているのか。そのままだと、チョコが融けて口に付くぞ。  互いに黙っていると、我妻が顔を少しだけ、俺の方に突き出した。 「んっ!」  ……可愛い、ということしか分からない。何故、菓子の先端を俺に突き出しているのか……。  俺はチョコでコーティングされていない先端部分を、指で押してみた。すると我妻が、慌てた様に首を横に振る。 「ん~っ!」  我妻は引かない。俺に菓子の先端を突き出したまま、耳まで赤くなって、俺を見ている。  ――指で押すのが駄目なら……引くか。 「んぁっ!」  菓子を口から引き抜くと、我妻が驚いたような声を出した。 「何の遊びだ」 「あ、遊びじゃなくて……っ」  我妻はとうとう俺から視線を逸らし、前を向いて俯く。我妻らしい反応だが、目を逸らされていい気はしない。

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