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【幸福と蜜月 ④ 社畜もどきと男の娘もどき】
◆ファンアート嬉しかった記念
【キャラ紹介】
*本渡 果
思ったことを割とすぐ、口に出してしまうタイプの青年。本人は『もう少し考えてから行動したい』と思っている。
チンピラに絡まれたら、黙って睨めば勝てるタイプ。
*赤城 鈴華
熟考してから発言をするタイプ。本人は『もう少し瞬発的に行動したい』と思っている。
チンピラに絡まれたら、話し合いを提案しそうなタイプ。
――前回のあらすじを話そうか。
それは、一週間前のこと。
突然舞い込んだ仕事に忙殺されていた俺は、とにかくおかしかった。
どのくらい【おかしかった】のかと言うと……。
――赤城さんの許可も取らず、コスプレ衣装を購入するくらいにはおかしかった。
仕事終わり。無意識のうちに【ボリューム満点激安ジャングル】を自称する、なんでも揃って便利なお店に足を向けた時点で気付くべきだった。
しかし、赤城さんは戸惑いながらも俺のためにコスプレ衣装を着てくれたのだが……。
『そのまま何か一言! それでお終いにしますから!』
コスプレ衣装――メイド服を着てくれた赤城さんに、俺は恥も矜持も外聞も彼氏としての最低限な体裁も全て捨てて、そう頼み込んだ。
すると、赤城さんは困ったようにため息を吐いた後。
『悪い子』
そう、俺の耳元で囁いたのだ。
それから、一週間後。つまり、今現在。
俺は、とある野望を抱き続けていた。
「赤城さん! 目玉焼きに塩をかけようとしたら、間違えて砂糖をかけてしまいました!」
赤城さんが用意してくれた夕食を前に、俺はピンと真っ直ぐな挙手をする。
赤城さんはパチパチと目を瞬かせた後、困ったように笑った。
「ごめんね、本渡君。塩と砂糖、分かりづらかったかな」
「えっ。あ、イヤ、違――」
「僕、目玉焼きにかけるものにこだわりがないんだ。だから、その目玉焼きは僕が食べるよ」
「だッ、大丈夫ッス! 今日は砂糖かけて食べたい気分になったんでッ!」
皿を回収しようとする赤城さんから、目玉焼きオン砂糖を隠す。
……なにをしているんだって? 見たら分かるだろう?
――赤城さんに、もう一度『悪い子』って言われたいんだよッ!
この一週間、俺はあの手この手で【悪いこと】をしてみた。
だが、赤城さんを傷つけない範囲の【悪いこと】だ。
典型的な悪いこと。例えば、家事の手伝いを名乗り出てわざと食器を割る、なんてことはしない。
しかし、色々とチャレンジしてみたのだが……。
「そう? それじゃあ、僕も味が気になるから、砂糖をかけてみようかな」
――赤城さんが優しすぎて全然上手くいかねェッ!
ちょっとした悪いことは『気にしないで』と慰められ、ならばと【頭が悪い】という方向の【悪いこと】にも手を出してみたのだが、結果はコレだ!
たぶん赤城さんは、砂糖と塩を入れてる容器に明日からそれぞれラベルを貼る! そういう人なんだよ、俺の恋人は!
ひとまず俺は、砂糖をかけた目玉焼きに醤油を垂らす。砂糖醬油味の目玉焼きが完成した。パクッ。……ウン、甘い。
「意外と美味しいかも。挑戦してみて良かった」
甘党の赤城さんは喜んでいるようだ。……可愛い。
……だが、どうしたものか。
このままでは『悪い子って言ってください!』と頼み込むしか方法がないぞ。
そうして悶々としていると、赤城さんがテレビ画面に目を向けた。どうやら、今は動物番組の時間らしい。
「本渡君は犬と猫、どっちが好き?」
「赤城さんのことが好きッス」
「えっ。……あっ、う、うん。あり、がとう……っ」
動物よりも、今は赤城さんに叱ってもらうことの方が重要だ。
赤城さんに対して反射的に返事をしてしまったからなんて言ったか忘れたけど、それは後で謝ろう。
なぜか赤面している赤城さんが、不意に口角を上げた。
「あっ。犬と猫のイタズラ特集だって。飼い主さんのぬいぐるみを噛んじゃってる」
赤城さんは犬とか猫が好きなのか? やけに嬉しそうだ。
――すると。
「――悪い子だね」
赤城さんが【あの言葉】を口にしたと同時に。
「――だァアッ!」
「――本渡君っ?」
俺は素早く、テレビ画面を消した。
突然叫んだ俺を、赤城さんは驚いた様子で見上げている。
「赤城さんッ! 俺、勝手にテレビ画面消しましたッ!」
「えっ? そ、そうだね。犬、嫌い?」
「嫌いじゃないッスけど、このままだと敵になりそうッス! そんな俺に一言なにかッ! なにか言うことがあるんじゃないッスかッ!」
「えっ、えっと、そうだね……。……ぼ、僕も、犬や猫よりは、その……本渡君の方が、好き、だよ……っ」
「ちがッ、でも……あッ、うぅ、くッ!」
……拝啓、一週間前の俺。
今日も、俺の赤城さんは天使だ。
そして、俺はどうやら犬にすら勝てないただの人間らしい。
敬具。
……追伸。
あとは任せたぞ、未来の俺。
【社畜もどきと男の娘もどき】 了
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