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【[急募]三十路で童貞処女なウザ可愛い上司の落とし方 ⑥ [簡易]〇〇しないと出られない部屋】
【キャラ紹介】
*鳴戸 怜雄
長身眼鏡な圧倒的童貞じみた青年。実際、童貞だから仕方ない。
運命の悪戯により絶賛、上司である井合へときめき中。本人も時々『どうして』と天を仰いだり仰がなかったり……。
*井合 俊太
合法ショタな見た目をした三十路の課長職。
泳ぎ続けないと死ぬ魚の如く、下ネタを言わないと生きていけないという噂があったりなかったり……。
それはまだ、俺が井合課長に恋をしたばかりの頃。
業務終わり、企画開発課の事務所にて。俺は心から、こう叫びたくなった。
──帰りたい、と。
「──どうしたクソ童貞! ここにある媚薬十本を飲み切らないと、この部屋からは出られないぞ!」
小さくて煩い──もとい、元気な井合課長が俺のデスクに並べたのは、液体の入った小瓶だ。
宣言通り、数は十本。……どうやら、媚薬らしい。
二人きりになった途端、どこかで見たことのあるような展開を自ら勝手に語りだし、無視して帰ろうとすると怒涛の勢いで止められ、仕方なくデスクに座っている。そんな現状。
どうやら今、俺たちは【媚薬十本を飲み切らないと出られない部屋】に居るという設定らしい。
……正直、なにが楽しいのか全く分からない。
「話し合いで、どちらがどう飲むか決めるぞ!」
げんなりとした表情で、液体の満ちた小瓶を見つめる。
これはもしかして……異動したての俺に対する、洗礼かなにかなのだろうか。
企画開発課に異動した職員全員が、一度は経験することなのかもしれない。
……つまり、だ。ここで必要なのは、井合課長が納得するような解答だろう。
「おっ? やる気になったな?」
眼鏡を指で押し上げ、小瓶を眺める。
瓶の数は、十本。順当に考えたら、五本ずつ飲むのが妥当だ。
──だが、それだと普通すぎる。
この人は馬鹿だけど、一応は天才の部類に入る人だ。『偶数ですし、仲良く半分こしませんか』なんて。そんな答えじゃ、絶対に満足しないだろう。
……と、なると。
「おぉっ?」
小瓶を一本だけ、手に取る。蓋を開けると、妙に甘ったるい匂いがした。
媚薬なんか飲んだことがないし、そもそも見たこともないけれど……きっと『こういう匂いなんだろうな』って匂いがする。
残り九本の小瓶からも、蓋を取ってみた。やはりどれも、同じ匂いがする。
……井合課長が目を丸くして俺を見ているが、それは無視だ。
──俺はそのまま。
──媚薬を十本、ノンストップで飲み始めた。
「……ほ~っ?」
特に味わったりせず、グビグビと媚薬を飲み干していく俺の動きに合わせて、井合課長が目を丸くしたまま頭を上下に動かす。……頼む。その動きは可愛いから、やめてくれ。
十本とも飲み干し、息を深く吐いてから。
──俺は、井合課長を睨んだ。
「──苦いですッ!」
「──だろうなっ!」
──苦すぎるッ!
匂いは蠱惑的なほど甘いくせに、コーヒーとピーマンの苦みだけを抽出して泥水で溶いたような味だ! 嗅覚と味覚で齟齬が発生し、脳がパニックを起こして当然だろう!
元来甘党の俺からすると、この味は地獄そのものだ!
「俺様が配合した【栄養価にステータスを極振りしたせいで味は最悪中の最悪ドリンク】を、よくもまぁ一気に飲み切ったな。素直に驚愕だぞ」
「それは、まぁ……うぇ……っ」
まさかの確信犯だったらしい。訴えたら勝てるだろうか。
吐き気すら込み上げてくる、毒薬のような飲み物。俺は口元を押さえながら、それでも気持ちを伝えたくて……独り言のように呟いた。
「──危険性があるものを、井合課長には飲ませられませんから……っ」
──井合課長に聞こえただろうか……?
いや、聞こえていなくてもいい。いっそ、聞き流されたって構わない。
俺は真っ青な顔をしていると自覚しながら、井合課長を振り返った。
「あの、後学のために訊きたいのですが……さっきのって、他の人はどう答えたのでしょうか」
青白い顔をした俺に対して、井合課長は不思議そうに小首を傾げる。
「──ん? こんなことして遊んだの、お前相手だけだぞ」
──は?
一瞬だけ、気が緩む。
井合課長の返答に対して、驚いてしまったのと。
……不覚にも、胸が高鳴ってしまったからだ。
──ゆえに、危機が迫った。
「──う……っ! はっ、吐きそう……ッ」
「──だろうな! なにをしている! 早く洗面所へ向かえ!」
井合課長の声に後押しされるよう、俺は椅子から立ち上がり、素早く洗面所へ向かって走り出す。
抗いようのない吐き気がスッキリした時、俺は井合課長の言葉を考える気にもならなかった。
……だから当然。
──俺が嘔吐している間、井合課長の耳が赤くなっていたことも、俺は知らない。
【[急募]三十路で童貞処女なウザ可愛い上司の落とし方オマケSS:[簡易]〇〇しないと出られない部屋】 了
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