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【半歩ずつ踏み込もう ⑤ 相手を騙さないと出られない部屋(後編)】

◆突発的に思いついたネタです  カリフラワーがブロッコリーの雌個体という、誰も得をしないしょうもない嘘。  そこから始まる、盛大な騙し合い。  ついに、二人の思惑は本題から大きく外れて……新幹線級の速さで、互いの脳を駆け巡る。 (よ、よし! オレにしてはなかなかいい演技だった……! これでオレは、ちゃんと騙されたフリができたぞ! 後は、オレが相田を騙せば……)  傘野は目的を達成。ラストミッションに向けて前進する。  しかし、相田は動けない。 (まさか、自分が信じて疑わなかった【カリフラワー】は、存在しない……? 根拠がないからこそ提示した【虚偽】が、この世界の【常識】であり【真実】だったのか……?)  傘野の勘違いが生み出した、想定外のリアクション。  あまりにも真に迫った反応を受けて、相田はまるで……前後不覚に陥った心地だった。  ――ゆえに。 「「……っ!」」  二人は、驚いたのだ。  ――突如、扉にかかっていた南京錠が……音を立てて、床へ落ちたのだから。  二人は、お題を達成した。  ――傘野は【カリフラワーがブロッコリーの雌個体】だと信じ。  ――相田も【カリフラワーがブロッコリーの雌個体】だと、信じてしまったのだから。  部屋から解放された傘野は、当然戸惑った。 (オレ、相田にウソ吐いてないのに……なんで開いたんだ?)  相田は相田で、眼鏡をゆっくりと指で押し上げる。 (開錠された、ということは……やはりカリフラワーはブロッコリーの雌個体ではない、ということだな。傘野、すまない。自分は、君への評価を改める必要があるらしい)  ひとまず、二人は胸を撫でおろす。  ……そして。  * * * 「――相田ッ!」  ガバリ、と。  勢い良く、傘野はベッドから起き上がった。  まるで助走を付けて飛び起きたかのような動きに、傘野自身が驚く。 「えっ、夢……? オレ、相田とあんなに喋ってたのに……狭い部屋に、二人きりだったのに……。……えぇぇ……ッ?」  妙な部屋に閉じ込められて、大好きな相田と二人きりだった。  そんな【幸せな夢】を、傘野は真剣に見ていたらしい。 「なんだよ、クッソ……。『出られたな』って言って、ハイタッチくらいならできそうだったのに……。……でも、夢の中の相田も、メチャクチャカッコ良かったな……」  にへら、と……傘野はだらしのない笑みを浮かべる。  そのまま無意識のうちに、傘野はスマホへ手を伸ばす。ただの習慣だ。意味はない。  そして。 「――うぉわああッ!」  奇声を発した。  ……傘野が驚くのも、当然で。 「――相田から『放課後図書室に来てほしい』ってメッセージきてる! ほ、放課後デートってやつじゃん……! うわっ、うわ~、嬉しい~ッ!」  夢の中でも相田に会い。  放課後も、時間を割いて会う約束が持ち掛けられた。  傘野は意気揚々と、了承の旨を返信しようとする。 「すぐに返事するぞ! ……って、アレ? コレって、普通に『分かった!』でいいのか? それとも、スタンプとかの方が気さくな感じがしていいのか? いや、相手が相田だし、もっとガチッとした文章の方が……うぅん、悩むなぁ……」  そんな、純情に恋心を上乗せして浮かれまくる傘野は……知らなかった。  ――放課後、図書室で野菜図鑑をみっちり読み込ませられることを。  ……傘野は、知らなかったのだ。 【半歩ずつ踏み込もうオマケSS:相手を騙さないと出られない部屋】 了

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