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第7話
「じゃあライン交換しましょう。QRコード出して。読み取るから」
「QRコード……? あっ、ごめん。俺、ラインやっていなくて」
「え? 本当に? 交換が嫌で嘘ついたりしてないですか?」
「本当にやっていないんだよ……!」
嘘がつけない人だと言うのはさっきまでの言動で何となく分かっていたけれど、念のためにと疑いの目を向けると、麦嶋さんは慌ててアプリ一覧を俺に見せてくれた。ほら、ないでしょう? と、必死になる姿はやっぱり可愛いと思ってしまうものの、この人は色んな意味で危うすぎる。
「分かりました。じゃあ今、電話番号教えて」
「電話番号は……えっと……」
自分の番号くらい覚えていればいいのに、麦嶋さんはワタワタとプロフィールページを開き、番号を確認するとゆっくりと読み上げ始めた。口頭で確認しながらその番号を押し、全部言い終えたところで通話ボタンを押す。
「うわっ、電話がかかってきた……!」
「この流れだとかかってくるの分かるでしょ? 俺の番号登録してもらわなきゃいけないんだから」
「そうか……、そうだね」
何度か鳴らしたから電話を切ろうと思えば、そうだねと言ったくせに麦嶋さんは俺からの電話に出てしまった。もしもしと、目の前の彼がそう言う。ちょっと待って、素でこんなことをしてるの? 純粋じゃあない、ただのバカだろこの人。
「麦嶋さん、出なくていいですよ。電話切って、そうしたらその番号すぐに登録して」
「あ、うん……」
自分のしたことがおかしいとやっと気づいたのか、麦嶋さんは慌てて通話終了のボタンを押すと、たどたどしく何度かボタンを押し登録してくれた。
「できました?」
「うん」
「それじゃあ今度都合の良い日があれば、ご飯行きましょう」
「えっ」
麦嶋さんが驚いた声をあげたと同時に手からスマホが落ちコンクリートの上で派手な音がした。絶対に画面が割れてしまったと思ったけれど、少し傷が入ったくらいでホッとした麦嶋さんに、俺もため息をつく。
「友人になるんじゃあないの? だから番号交換したんでしょ?」
「そうだけど、遊びに出かけるとか急すぎるんじゃあないかな」
「別に今週すぐに遊びましょうと言ってるわけじゃあないし、遊ぶっていうか……だって俺と麦嶋さん多分乗ってくる駅もそんなに変わらないし、帰りに一緒に夕飯食べに行こうってそのくらいのつもりで。俺だっていきなり一日中一緒に過ごしましょうなんてハードルの高いこと言わないよ? というかそもそも電話のやり取りだけするつもりだった?」
「いや、その、君は若いからオシャレなカフェとかでゆっくりしたり、オシャレなお店で買い物したり、そういうことをするのかと……」
何回オシャレを言う気だと吹き出して笑うと、麦嶋さんは手で顔を覆ってしまった。それに俺とそんな店に行くことを想像したのかと思うと、たまらなく面白い。
「麦嶋さん、顔見せて」
「今日は君の前で恥ずかしいことしかしていない……」
「可愛いからいいんじゃあないですか」
「大人を馬鹿にするなよ」
「してないって。可愛いって言ってるだけでしょ」
手を引き離そうと無理矢理引っ張るも、思ったより力が強くて顔が見られない。笑ってごめんねと、思ってもいないくせに一応謝ってみると、麦嶋さんは指の間から目を覗かせた。こういう行動が俺に笑われるってどうして分からないのだろうか。
「そこから覗かないで顔出しなよ」
「嫌だ」
「嫌って……、ってか電車来たよ。それと、俺はいちいち遅れた理由を聞かれないけど、麦嶋さん大丈夫? 遅刻の理由聞かれた時どうするの?」
「大丈夫……」
乗車位置から少しズレて止まった電車に、未だ顔を隠したままの麦嶋さんを、手を引いて乗せた。結局ずっと隠したままで、俺が先に降りる時もまだ隠していた。それに大丈夫と言っていたけれど、どう説明するつもりなのだろうか?
色々と気になることばかりで、別れた後もずっと彼のことを考えて過ごした。
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