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第6話
「……で、どうするんですか? 友人になるの? ならないの?」
「き、君は、俺と友人になりたいの?」
「へぇ、そうやって俺に聞くんだ。提案してるのは俺の方なのに?」
「だって、友人になって何をするのかなぁって……」
そう言うと男性は足に乗せている鞄を覆うように丸まった。少しだけムスッとした顔をしている。突き出された下唇に笑ってしまった。
「それは俺も知らないですよ。こんな年上の友人なんかいないし」
「こんな年上って……! 俺はまだ三十だ。君とそんなに変わらない……」
「俺は二十歳なんで十歳差ですね。けっこう変わりますよ。俺が生まれた時あんたは小学……」
「っもういい、もうやめて。差はけっこうありました。ごめんなさい」
顔を手で隠し、バタバタと足を動かす。コロコロ変わる表情とかこういう態度とか、それだけで見たら確実に年下だよなぁと、つい伸ばしてしまった手で頭を撫でた。
「まぁでも身長が低いから可愛いし、スーツ着てなかったら三歳くらいは若くなるかもね」
「君、さっきからだいぶ意地悪だよね……」
「その方が痴漢されたことよりも、俺の方が印象に残って良いでしょう?」
「……え? 優しさだったの?」
「適当に言っただけです。あんたって素直すぎ」
「う……」
単純というよりは純粋なのだろう。それにこの人を見ていると構い倒したくなってしまう。触れて感じる体温も高く、本当に子どもみたいだと思った。中身を知ってしまえば三十歳にはとうてい見えない。
「さっき流されてしまったけど、名刺くださいよ。二枚くれると嬉しいな」
「二枚……?」
どうして二枚も必要なのかと、そちらに気を取られてしまったのか、俺に名刺を渡すことには抵抗を示さずに名刺入れから二枚取り出し、首を傾げながら渡してくれた。麦島でなく麦嶋の方かと名字を確認した後で会社名を見れば、俺の大学から徒歩圏内にあるわりと大きめの会社で、それを伝えると彼も一緒に驚いてくれた。
「近いってことはこれ、降りる駅も一つ違いくらいだし、もしかしたら毎朝同じ車両にいたのかもね……」
「運命感じます?」
「少し、ね……」
からかおうと思ってそんなことを聞いたのに、麦嶋さんは少し照れたように微笑んで、膝に置いていた右手をそわそわと動かした。それにつられて恥ずかしくなった俺は誤魔化すように咳払いをし、ペンを取り出すともらった名刺の裏に名前を書いて渡した。
「楠瀬佳吾……」
「さっきも言ったんですけどね。多分いっぱいいっぱいで聞いてなかっただろうと思って」
「佳吾くんか……。かっこいい名前だね」
「あんたの名前も唯斗ってかっこいいと思うけど」
名刺を見ながらそう言えば、初めてかっこいいと言われたと笑顔を浮かべ、麦嶋さんは俺の名前が書かれた名刺をスマホケースのポケットへとしまった。
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